私……頑張れてますか?
でも、あんまり心配することも無かったかしら。
特に男性は下町のお店でが提供しているボリューミーな料理が殊更嬉しいようで、貴族も平民もなく美味しそうに食べてくれている。
心なしか、例年の紅月祭よりも生徒たちの会話も弾んでいるようで、それがまた嬉しい。
「デザートは、様々な貴族の皆様お抱えのパティシエの自慢のスイーツをご用意したほか、カフェ・ド・ラッツェからも面白い仕掛けのデザートが届いていて……」
説明しながらふとレオさんを見上げたら、なんだかレオさんが、とてつもなく微笑ましそうな目で私を見ていた。
「あ、あの、私……なにかおかしなことを言っていますか?」
「まさか!」
「だってレオ様、なんだか子供をみるような目で」
「違う、違う。むしろ感心してたんだよ。ひとつひとつ、そんなに語れるなんてすごいじゃないか。それだけ思い入れが強くなるくらい、クリスちゃんが頑張ったんだなって思ったら、つい顔がにやけたというか」
ふんわりと笑ってくれるレオさんを見上げていたら、ちょっとだけ鼻の奥がツーンと痛くなった。
レオさんに会うのも我慢して、ここまでずっと頑張って来たからかしら。なんだか、すごく嬉しい。
「私……頑張れてます?」
「うん、すごい!」
思わずポロリとこぼれた言葉を、レオさんは満面の笑顔で肯定してくれた。
「嬉しい……私、昨年はレオさんが紅月祭のために頑張っている姿を、ただただ凄いと思って見ていたのです。生徒をまきこんで紅月祭のために準備をしていたこととか、生徒たちが見たこともない食材をみつけてくるとか」
「うん」
「今年、同じ食材系の段取りを体験して、本当に大変で」
「そうだね。なんかもう、途中でどこまでやれば驚きのあるものになるのか、わからなくなるよね」
「本当にそうなんです。でも、昨年レオ様たちが作り上げたような紅月祭を、わたしたちも作り上げたいし、貴族と平民の会話のきっかけづくりになるようなことができないかって、考えたりもして」
「クリスちゃん」
「はい?」
「もっと話を聞きたいけど……呼ばれてるかも」
レオさんの目線を追うと、二階のテラスに続く細い廊下のところから、アデライド様が鬼の形相でこちらを睨んでいた。
しまった。レオさんに伝えたいことが多すぎて、時間を忘れてしまっていたみたい。
「ゆ、ゆっくりしすぎたかも! 私、ちょっと裏方を手伝ってまいります!」
「うん、いってらっしゃい。俺は旧交を温めておくから、心配しないでしっかりやっておいで」
レオさんは笑って手のひらをヒラヒラと振る。
そうね。友人が多いレオさんですもの、確かに心配ないわよね……。




