約束の期限
急にマークさんが会話に入ってきた。
「ちゃんと期限を切るんだ、クリス。期限の無ぇ約束ほど不確かなモンはねぇからな」
「そうだね、その方がいい…クリスのためにもね。そっちのボウヤはどうだっていいけどさ、いつまでもあんたがその約束に縛られる事ないんだからさ」
女将さんも私の顔を覗き込んで、頷いてくれる。
「3年…ですか」
「それ以上は坊ちゃんを甘えさせるだけだからダメだ。ただ、そいつの真価が分かるのも、新人なら2年くらいはかかるもんだけどな」
…2年もかかるものなの?
私はちょっと驚いてしまった。長くないだろうか、それ。前世でアルバイトしてた時、後輩が入って割とすぐに要領や吸い込みが悪い子かどうかは分かると思うけど…。
「納得いってない顔だな」
マークさんが苦笑する。
「冒険者の世界でもな、2年後に生きてる事が最低条件だ。そんで、その頃にはちゃんと格差もついてる。…意外とな、最初はへっぽこに見えたヤツの方が着実にランクを上げてたりするもんだぜ?」
…条件がいきなり生死なんだ。さすがに冒険者はシビアだ。
「頭角を現しても過信がありゃ死ぬし、勇名を馳せても独立したらうだつがあがらねぇヤツもいる。要は日々の事からどれだけ自省して考えて、次に活かせるかだからな。坊ちゃんが今の反省を活かして結果を安定して出すにゃ丁度いいだろ」
高ランク冒険者のマークさんが沢山の新人達を見てきた結果出てきた言葉は、素直に信じられる気がした。
「そうですね、2年後にしましょう。まずは2年間、必死で頑張って下さいませ」
視線を向ければ、グレシオン様はしっかりと拳を握り、力強く頷いた。
「2年後だな、死ぬ気で精進する」
「はい、私も…頑張ります」
つい小さく呟いてしまったせいで、グレシオン様が不思議そうな顔になってしまった。
「…貴方は身近な人を盲目的に信じ過ぎた。…それ故に情報の収集や検証を怠り、公平・公正な判断が出来なかったんですよね?」
「う……そ、そうだ」
「私は…周囲の誰一人信じる事が出来なかったのです。それ故に公爵家の娘としてあるべき行動が取れなかった」
思考の癖になっているものなだけに、お互いきっと一朝一夕で、目が覚めたみたいに改善するようなものじゃない。毎日毎日、自分で言い聞かせ直していくしかないのだ。
「貴方にはしっかりと約束を果たしていただくとして、私も自己改革が必要だと思っただけですわ。もちろん、今回の件に関わったご令息達もですわよ?」