お父様が泣いてしまうわ
「エリーゼ」
「これ以上いじめたら、お父様が泣いてしまうわ」
予想外のお母様のセリフに、思わずふきだした。
どちらかというと、反対されていたのは私だと思うのですけれど。
「クリスちゃん、そのくらいにしてあげて。あなたも、この子たちをもっと信じてあげていいと思いますわ。昔、私から告白したときもあなた、若気の至りだって三年ほど信じてくださらなかったけれど、私、今でもしっかりあなたのことを愛していますでしょ? 大丈夫です」
お母様の援護射撃がありがたい。
いつの間にかお母様たちの惚気になっている気がしないでもないけれど。
「だが、二度も婚約破棄などということになれば、さすがにクリスティアーヌが傷つくではないか」
眉間の皺を深くして、お父様が心配そうに顔を歪める。
お父様はずっと、私のことを心配して、婚約をとめてくれていたのだ。
「お父様……」
じんわりと涙が込み上げてきた。
私が殿下から婚約破棄されたあの日から、きっとお父様はこうして口に出さないまま色々な心配をして、時に厳しく障壁として立ちはだかりながら、私を守ってくれていたんだわ。
「お父様、ありがとう……」
心からの、感謝の言葉が漏れる。
お父様は優しく私を抱き寄せて、たくましい腕で守るように力をこめる。その腕が、少しだけ震えているようだった。
「もう、よい。お前が学園を卒業するとともに、婚約を許そう。あの男も、それだけの功績は上げておる。このところの城下の市場は、以前とは比べ物にならぬほど新たな食材、産物が増え、活気に満ち……人々にも笑顔が増えた。これからも、その功績は増えていくであろう」
お父様の手放しの賞賛に、私は驚いて思わずお父様を見上げた。
お父様の顔はどこか寂し気で、でも、その瞳は慈しむように私を優しく見下ろしている。
「本当は、婚約を阻む理由などないのだ。……幸せに、なりなさい」
「お父様……! ありがとう、ございます!」
「まだ、あの男には言うでないぞ。今はこれまでで最も益が出る仕事を任せてあるのだ。紅月祭までには山場を越えるはずだ。それまでは仕事に専念させなさい」
さりげなく、レオさんの心配までしてくれていたお父様の気持ちが嬉しくて、思わずぎゅっと抱き着いた。
前世の記憶を取り戻して以来、初めて感じるお父様の体の感触に、温かさに、心までがじんわりと温かくなる。
「ずるいわ、私も」
後ろから、お母様がふんわり抱きしめてくれて、私はその日、両親の優しさに包まれて、涙がとまらなかった。
本日12月28日より、この『シナリオ通り〜』のコミック版が掲載されております。
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