お前は、本当に変わったなぁ
クーレイから戻って数日後、私は決意をもってお父様にお時間をいただいていた。
今日は私にとって、ある意味、決戦の日とも言える。
「お父様、お願いがあります」
内心の不安を抑えつつ、私は神妙な面持ちで話を切り出した。
「ほう、言ってみろ」
「紅月祭のパートナーなんですが、私、レオナルド様にエスコートしていただきたいと思っています。お許しいただけませんか?」
お父様は少しだけ驚いた顔をしたけれど、即座に首を横に振る。
「駄目だ、まだ婚約を許したわけではない。婚約者がいない場合は親戚筋の男性がエスコートするのが習わしだ。お前も生徒会の一員だ、しっているはずだと思うが」
「存じております。加えて学園外からの参加が許されるのは、学生の親族か婚約者、もしくはそれに準ずるもの、という規定があることも存じております」
「ほう」
「正式に婚約はしていなくても、両家の家長が正式に認めたときは、パートナーとして参加できるはずです。……その許可を、いただきたく思います」
真摯にお父様の目を見つめれば、お父様は愉快そうに眼を細めた。
「まさか、クリスティアーヌからその話を切り出されるとは思っておらなんだぞ。あのハフスフルールの後継者が言ってきそうなことだとは思っていたがな」
うう、さすがお父様。実際にはその通りなのです……。発案者は間違いなくレオ様でした。
というか、クーレイにいく前に、レオさんが教えてくれたことをそのまま言っただけというのが正直なところですし。
お父様のするどい指摘に、一瞬動揺したけれど、私はそれが表面に現れないように、努めて平静を装った。
「レオナルド様は、後日正式に、パートナーの件でお父様にご相談にみえると思います。ただ、お二人が話し始めると、私、どこで口をはさんでいいものやら判じかねて、結果黙ってしまうことになりそうだと思ったもので、私の気持ちを、お父様には直接伝えておきたいと、そう思ったのです」
「なるほど」
「レオナルド様はもともと生徒会のメンバーでいらしたので、今回の紅月祭を見届けて欲しいというのもありはするのですが……なにより私、どうしてもレオナルド様と一緒に、紅月祭を楽しみたいのです」
「……お前は、本当に変わったなぁ」
少し息をのんで、お父様は、とても感慨深そうにつぶやいた。
「あんなに生気のない顔をしていたお前からは想像もできないほど、明確に自分の意思を持って動くようになったし……なにより、それをはっきりと明言できるようになった」
お父様の大きな掌が、やんわりと私の頭を撫でる。
こんなに風に頭を撫でてもらうなんて、ほんの小さな子供の時以来。
なんだか面映ゆいけれど、嬉しい。
「娘の成長を感じ取れるというのは、嬉しいものだな」
お父様が、フッと微笑した。




