バランスが大事なのです
「そう、あれもストレス軽減の一環だったね。会場が広いから、どうしても食事が配される壁際の一部は採光がイマイチで、せっかくの料理がおいしそうに見えないって意見があって、錬金科にライティングの依頼をしたんだよね」
あれはストレスを軽減させるための議論の結果だったのか……と感心する。
おかげで会場を見ているだけでもキラキラとして楽しかったのだから、充分に効果を発揮したということなんだろう。
「で、ストレス軽減の一環で、スピーチ系を思い切って取りやめようかっていう議論も実はあった」
「まあ、大胆な」
「でも長いお話聞くのがストレスなのはわかりますわぁ」
フェイン様のお話に、グレースリア様とマルティナ様が思い思いに反応する。
確かに、学長からのお話のあと、来賓の方のお話がお二人ほど、そのあとに会長挨拶がありますものね。
美味しそうなお酒やお食事の魅惑的な匂いがある中での長い長いスピーチは、人によってはとってもストレスを感じてしまうかもしれない。
「で、その議論の時にレオさんが言ったんだよね、バランスが大事だって」
ルーフェスもうんうん、と頷いている。かなり印象に残ったやり取りだったんだろう。
「生徒の満足ばかりを考えてこれまでの伝統をないがしろにしすぎると、来賓の方々の顰蹙を買うでしょ? 基本は守りつつ、時間を短縮するとか人数を削るとか、会の前半、後半でわけてやるとか、やりようは色々あるんじゃないかってね」
「それで昨年は、例年とスピーチのタイミングが違っていたのね」
「そういうこと。僕たちの代の生徒会は、それこそ生徒たちの信頼も失ってたけど、陛下に近い方々の目もかなり厳しかったからね。きちんと基本をおさえておかないと、せっかく革新的なことをしても不興をかうだけで終わるから、それだけはなんとしても避けたいでしょ」
「なるほど、やっと理解できましたわ」
それまでただ真剣な面持ちで話を聞いていたアデライト様が、納得したという顔で頷いた。
「今のお話と一緒で、あまりに奇をてらったことばかりやり過ぎると、女は常識もしらない、とかそういう話になってしまうから、『基本は踏まえつつ、女性ならではの印象が残るように』するべきだ、と仰ったんですのね」
「例が生々しい! 想像力たくましいなー、でもまあ、そういうこと」
「そうですね、なにごともやり過ぎは良くないですものね。レオもたまには役に立つことを言うのね、意外だわ」
グレースリア様が笑えば、フェイン様は「そう? 僕は彼らしいと思ったけど」と呟く。




