紅月祭を、私たちの手で
学園に戻った私を待っていたのは、今年一番の大仕事。
目の前には、仁王立ちのグレースリアと、真剣な表情の生徒会役員の面々がいる。
新学期が始まった今日、生徒会室に召集された私たちは、グレースリア様からのお言葉を、粛々と賜っていた。
「皆さま、これからの三カ月が、私たちの勝負の時期ですわ!」
そう、いよいよ紅月祭の準備に取り掛かる時期がやってきたのだ。昨年、レオさんがヘロヘロになりながら準備していた、あの紅月祭の準備期間が、ついに。
「皆さまもご存じかと思いますが、紅月祭はこの学園最大の催事です。学生たちも最も楽しみにしている催しですし、学園のOBも注目していますわ。失敗は許されません」
そう、この催事をどれだけ華やかに、満足度の高いものにできるかで、毎年の生徒会の腕が試されるのだ。
腕の見せどころでもあるのだけれど、正直とても不安……。
「特に女性陣!」
「はい!」
グレースリア様のいきなりの喝に、背筋を伸ばしてお返事してしまった。
でも、マルティナ様とアデライド様も同じように背筋が伸びたから、きっと私と同じ気持ちだったに違いない。
「私たちにとっては、またとないチャンスですわ」
グレースリア様の言葉は、私にとっては少し意外だった。
だってこれがチャンスだとは、捉えていなかったんですもの。
でも、アデライド様は少し頬を紅潮させ、力こぶしを作っている。
「そう、ですね。ここで王城にお勤めの学園OBの方々にアピールできれば、卒業後の進路に光明が見えますものね」
「ですよねぇ、どれだけ成績がよくて文官に登用されたとしても、配属先で受け入れてくれなかったら悲しいですものねぇ。印象を良くしておきませんとぉ」
その会話に、私は戦慄した。
アデライド様はもちろん、マルティナ様も、至極真面目な顔で話している。きっと、簡単に想像できる未来だということだろう。
文官に実力で登用されたとしても、受け入れ自体を拒否する配属先があってもおかしくない……むしろ想定内のできごとだと、二人は思っているようだった。
私の希望先は市井官で、すでにその仕事もわずかではあるけれど体験し、部署の雰囲気もわかっている。
だから、受け入れを強硬に拒否されるイメージはなかった。
でも、それ以外のところにもし配属先が決まったとしたら、はたして快く受け入れてくれるだろうか。ふと、以前資料室で出会ったキツネ目の男性が思い出される。
あの方は、ぜひ自分の部署にきて欲しいと言っていた。でも、私が公爵家の娘でなかったら、彼は同じように誘ってくれただろうか。
きっと、答えは『否』だ。




