私の答えは
「そう…ですね…いつか…」
小さな声で呟きながら、考える。
きっとグレシオン様とは、この機を逃せばしばらく話す機会はないだろう。
このまま謝罪を受けるのは簡単だけど、お互いにこのバカな事件で失ったものは大きいし、これまで何一つ国のためになる事なんて出来なかった私だから…せっかくならば、少しでもいい未来に近づけるように、何か…何か残したい。
私の足りない頭でも、何か考え付けないだろうか。
「クリス…大丈夫かい?無理して許さなくたっていいんだよ?」
心配げな女将さんに笑顔を見せながら、私は一生懸命考えた。
そもそもはグレシオン様達の愚行から端を発した今回の件ではあるけれど、もしも良かった事があったとしたら、それは「気付き」と「反省」だけだ。
グレシオン様はもちろん、私やお父様も含めこの件に関わった多くの人が、自分の愚かさや欠点に気付いて反省出来たのは、実はとっても大事な事なんじゃないだろうか。
罰して、ルールを決めて、その通りにさせる事は出来ても、人の心や考え方、行動原理を変えるのは至難の技だ。
でも、今ならきっと変えられる。
大切なのは、多分歯止めだ。反省したって、結果に結びつかなきゃ何の意味もないんだし。一旦気付いて反省しても喉元過ぎればで、時が経てば、周囲に惑わされれば、すぐに楽な方に流れちゃうものだもの。
未熟な私には、出来る事なんか大してない。でも、ちっぽけだけど、私にしかできない大事な事もあるから…。
私が、歯止めになれればいい。
私は一歩前へ出て、グレシオン様にしっかりと目線を合わせた。
「謝罪を受け入れるかどうかは、その『いつか』まで、保留にさせて下さいませ」
グレシオン様が、ハッとしたように目を見開く。
「まずは自らの足で謝罪に来て下さった事、それは嬉しく思っております。ただ、今の段階ではどれほどのお気持ちで言って下さったのか私には測り兼ねるのです」
私の言葉に、グレシオン様は悲しげに睫毛を伏せた。
「ですから私、しっかり見届けさせていただきますわ、これからの貴方がどう変わられるのか。ゆめゆめ忘れないで下さいませ。どれほどの決意で仰っていただいたのか、いつだってこの…一方的に断罪され、婚約破棄されたクリスティアーヌが見ている事を」
あえて嫌味な言い方を心がけてみたけど、どうだろう。歯止めになるには心に刺さって貰わないと効果が出ないかも知れないし…。
「クリスティアーヌ…」
「クリス、3年が上限だ」
【大切なお知らせ】
基本この枠は使わないんですが、読んで下さる方全員が見れるようにと考えるとここかなぁと。
■このお話は、ざまぁしてスッキリ爽やかなタイプではありません。ずっとざまぁを期待している方もおいでのようなので、申し訳なくなり、注意喚起です。
■それぞれが自分なりに正しい事をしようとしているんですが、結果は面倒な状況になっている。なぜそれが起こり、それをどう受け止めて、どんな将来を選ぶのかが書いていきたい内容です。
■主人公も話の展開も、迷い、悩む事前提なので今後もモヤモヤすると思います。ここまで読んで合わないなぁ…という方は、多分今後も無理です。
ここまでなんだかんだ楽しめている方は、これからもご愛顧下さいませ。