レオさんが無事でよかった
「そんなに驚くほどのことでもないでしょう。これくらいの駆け引きができないと、交渉ごとなんてできませんからね」
いっぽうコーティ様は、至極当然、と言わんばかりに深く頷いている。
「それに、彼らを泳がせておくのも悪くない判断だと思いますよ。彼女たちを追えば、掴みづらいもぐりの売買ルートを特定できるかもしれないですしね」
なんと、レオ様やコーティ様は、そんなことまで考えて、リナリアさんたちを泳がせる判断をしたというのだ。ルーフェスもすっかり勢いをそがれた様子で、「なるほど……」と言ったっきり黙り込んだ。
「王都の品物については、ゴヨークと取引のあったものが他にいないか、そこも明日からは重点的に洗っていきましょう」
「すみません。俺は明日、鉱山の取り引きと獣毛の取引を終えたら、次の町に向かわなければならないんです。意外と日程が厳しくて」
「うわ、本当にすれ違いになるところだったんだ」
ルーフェスが目を丸くする。私も同じ思いだ。本当に、間にあって良かった。
「行きの道中、頑張って良かったですね」
コーティ様は私とルーフェスにそう声をかけてから、レオさんにも柔和な顔を向ける。
「ええ、問題ありませんよ、レオナルドくんが無事だということがわかっただけで僥倖です。これでクリスティアーヌ嬢も落ち着くでしょう」
にっこりと微笑む、コーティ様の笑顔が痛い……。これはしばらくからかわれるパターンだ。
「我々はあと数日、必要な情報を入手するために滞在しますが、お気になさらず」
「二人のこと、よろしくお願いします」
笑いあう二人の間に、黒い空気が流れている気がするのは、気のせいかしら。
でも、コーティ様が仰る通り、レオさんの元気な姿を見ることができて、心底安心したのは事実だ。
本当に、レオさんが無事でよかった。
それだけで、あの死ぬ思いだった馬車の揺れも、すべてが許せる。
翌日、レオさんは無事に取り引きを終えて次の町に旅立っていき、私はそこから数日、コーティ様の見た目とは裏腹の、体力勝負な調査術を叩き込まれることになった。
三泊四日ほどの短い研修期間中に、聞き込みから交渉術、尾行や張り込みなど、正直前世で見た刑事もののドラマのような、あらゆることを教え込まれた私は、少し大人になった気分だ。
ルーフェスも最後はちょっと、なにかを悟ったような顔になっていた。
ちなみに、帰りの馬車での道程は夜は宿屋で眠れるぶん、少しは楽だったけれど、やっぱりルーフェスはめちゃめちゃ酔っていた。
やっぱり、馬車には私のほうが強いらしい。
『シナリオ通りに退場したのに〜』コミック化情報、出ましたー!!!
詳しくは活動報告をご覧ください。
なんか、思わぬ色々な展開をしていただけて、面白いことになっております!




