とんでもない奴に捕まったみたいね、アタシ
リナリアさんは、ガルアさんの言葉の裏を探るようにしばらく彼の顔を見つめていたけれど、やがて諦めたのか、ゆっくりと俯いた。
その口元には、僅かに笑みが浮かんでいる。
……リナリアさん、私も、ガルアさんの言葉に裏はないと思います。
きっとガルア様は、本当にリナリアさんのことを愛しているんだわ。
「……アンタよりいい男がいたら、いつだって乗り換えるんだから、そこは覚悟しといてよね」
「その時はまた力づくで攫って逃げるから別にいい」
リナリアさんが、弾かれたように顔を上げる。
驚いた表情のリナリアさんに、ガルア様はニヤリと笑って見せた。
「……とんでもない奴に捕まったみたいね、アタシ」
ガルア様はなんだか物騒なことを言っているけれど、リナリアさんは意外にも、それを本気で嫌がってはいないみたい。
なんとなく収まったのならいいのかしら。
取引に向かうのか、山小屋のほうへ去っていく二人を呆然と見送って、ふう、と息をついた。
「なんだか、嵐のようでしたね。あれが有名なリナリア嬢ですか」
「学園にいた時とはまるで印象が違いますけどね、あれが本性なんでしょ」
コーティ様もレオさんも、驚きを隠せない様子だ。私もなんだか、とてもとても疲れた。
「ところでレオナルド君、きみ、取引は途中なんじゃないですか?」
「そうなんですけどね……今はあっちが取引中でしょう。明日改めて出直します。というか、なぜその……あなた方が、ここに?」
チラリと私を見て、レオさんが言葉を濁す。そうですよね、謎ですよね。
「ああ、ではいったん我々の泊まっている宿屋に戻りましょうか。その話は道中、順を追ってお話いたしましょう」
鉱山から宿屋までの道のりはそれなりにあって、コーティ様が説明上手なのも相俟って、大まかな事情はレオさんにもお話しすることができた。
正直、ほっとしている。
レオさんも納得してくれた様子なのを見て安心した瞬間、コーティ様が爆弾を落としてきた。
「まあ、もちろんこんな遠くの町での調査を見学させる必要もないわけですが、なにぶん、クリスティアーヌ嬢が心配でたまらない様子だったもので、老婆心ながら連れてきた次第なのです」
あああコーティ様、そこは言わなくてもいい情報ですから……っ!
途端に真っ赤になる私を、二人して見つめないで欲しい。
コーティ様はミスト室長に毒され過ぎだと思います。こんな優しいお顔なのに、人をからかうのがうますぎる……!
猛烈に熱くなった頬をなんとか冷やそうと、右手でパタパタと風を送っている私に視線を送りながら、コーティ様は追い打ちをかけるように、さらにとんでもないことを言い出した。




