いい加減になさい!
口を開こうとしたガルア様よりも早く、リナリアさんが言い捨てる。
「もう放っておいて。さっさとどっかに行ってよ」
「しかし」
「アタシだって、アンタなんかもううんざりなのよ」
ガルア様が、虚を突かれたような顔で息をのむ。
「勝手に人のこと気絶させて、頼みもしないのにあんなド辺鄙な村に連れて行ってくれちゃってさ」
「それは……悪かったと、何度も謝っただろう。責任を感じているからこそ、お前の望み通り、あの村を共に出たのではないか」
「そうね、ガルア様はあの村で一生暮らしても良かったんだもんね。でも、アタシはイヤ。お店もない、可愛い服も、美味しいものも、素敵な男性も。なーんにもないあんな村で、楽しみもなく長々と生きていくなんて、まっぴらごめんなのよ」
ガルア様を言葉で滅多打ちにしたリナリアさんは、そのまま私達をギッと睨み付けた。
「あんたたちも!」
ひと声発した後、ニヤリと口角を上げる。
「お貴族様って本当に暇なのね。わざわざこんなとこまで来て、邪魔しなくたっていいでしょ。ねえクリスティアーヌ様、アタシに騙されたのがそんなに腹立たしかった?」
にやにやと、イヤな笑みを浮かべて言い募るリナリアさんに、なんだか背筋が寒くなった。
「それならいい気味だわ!」
高らかに笑い始めるリナリアさんの様子は、なんだかもうネジが一本とれてしまったようで、とても不自然に見える。
それを見ていると、不思議と身体がこわばって、体が重くなっていくみたい。私は深く息をつきながら弱々しく反論した。
「ですから、私はリナリアさんを追って来たわけではありません。そもそもあなたたちが、こんな石の取引などして王都の物価に影響を与えていなければ、こんなところまで調査にくることもなかったのです」
「石? この宝石の取引が、アンタに何の関係があるってのよ」
「王都の宝石を大量に買い付けているでしょう。その影響で王都ではその宝石が品薄になって、価格に影響がでているのですわ。今回はそれも調査のひとつなのです」
私の説明を聞いたリナリアさんは、ポカンとした顔をした後、けたたましく笑い始めた。
「傑作だわ! リスクを冒して取引した甲斐があった! この取引で王都で安穏と暮らしてる奴らに、嫌がらせできてたなんて、サイコーじゃない!」
お腹を抱えて笑うリナリアさん。響き渡る笑い声に、もう我慢の限界だった。
「いい加減になさい!」
パシン! と、乾いた音がした。
手がジンジンと熱くなって、ようやく自分がリナリアさんの頬を打ったのだと理解した。
……人に手を上げるだなんて、前の人生でも今の人生でも、初めてのことだった。驚きで、まだ熱をもつ右手をじっと見てしまう。
いまさら、手が震えて来た。




