悪いわね、コレが本当のアタシなの
「だからなに? 知ってるわよ、そんなこと」
憤然とした様子で「どいて!」と私たちの横を通り抜け、リナリアさんは山小屋の方へと歩を進める。
もちろんガルア様の鉄壁のガード付きで。
私たちを追い抜いて、鉱山のお爺さんのもとへ行くのかと思っていたら、なぜか彼女は、私達からそう離れてはいない地点で足を止めた。
……どうしてかしら、リナリアさんの細い肩が小刻みに震えているように見える。
「なによ、こっちの気も知らないで」
「リナリア……」
ガルア様も心配そうにリナリアさんを見下ろしている。
どうしたらいいのか分からないのか、ガルア様の両手が所在なく上下していた。
「勝手なこと言わないでよ」
キッとこちらを振り返るリナリアさんは、怒っているようにも、泣いているようにも見える。
「相手が危険な人物だって分かっても、取引するしかなかった。稼ごうって思ったら、危険だろうが何だろうがやるしかないじゃない」
そこまで言って、リナリアさんはガルア様をふと見上げた。
「そうね、ガルア様もとめたわよね」
そして、口元をいびつに歪める。
「でもね、余計なお世話だわ。お貴族様のアンタたちは知らないだろうけど、ちょっとした日雇いで稼げるお金なんて雀の涙なのよ。あんなのずっと続けてたら、あっという間にオバサンだわ」
「リナリア……」
「触らないでよ」
肩を抱こうとしたガルア様の手をピシリと叩き、リナリアさんがガルア様を睨み上げた。
「どいつもこいつも、むかつくのよ! 平民たちがどんなに苦労してるかも知らないでさ! ほんっと苦労知らずのおぼっちゃまたちは、親切ごかしてキレイゴトばっかり言うのよね。余計なお世話なのよ」
堰を切ったように、リナリアさんが不満を爆発させる。
「行商人も通らないような、ド辺鄙な村に勝手に連れていかれて、アタシがどんだけ迷惑したと思ってんのよ! 目が覚めた時は一瞬、絶望しすぎて死んでやろうかと思ったわよ」
「そんな、リナリア……」
ガルア様が、呆然とした顔で呟く。
「なに傷ついたみたいな顔してんのよ。当たり前でしょ! 誰が連れて逃げてくれってお願いしたのよ。ホンット、いい迷惑!」
重ねて言われて、ガルア様はすっかり意気消沈してしまった。
顔まで青白くなって、まるで生気が感じられない。その背中には黒々しい暗雲が見える。
リナリアさんの気持ちもものすごく分かるけれど、ちょっとガルア様も可哀そうなような。
「あの村から抜け出すのにどれだけ苦労したか!」
彼女の豹変ぶりに、驚きを隠せないのだろう。
そんなガルア様を見上げ、リナリアさんは不敵に笑んだ。そこにはもう、可憐さなどは欠片も見えない。
「幻滅したでしょ。でも悪いわね、コレが本当のアタシなの」




