この宝石は、まさか
「……っ」
足元スレスレを襲った鞭に、リナリアさんが驚いて足を止める。
そのまま悔し気にコーティ様を睨むけれど、肝心のコーティ様は冷たい目でリナリアさんを見下ろしたまま、表情を僅かでさえも崩さない。
それがいっそう、リナリアさんをいらだたせた。
「邪魔しないで! どきなさいよ、その女に思い知らせてやるんだから」
「そう言われてどくわけがないでしょう」
コーティ様とリナリアさんの間で冷たい言葉のやりとりがある横で、レオさんがなぜか身をかがめてさっき叩き落とした宝石の袋を取り上げる。
中から取り出した宝石をまじまじと見つめたレオさんは、眉根を寄せて「これは……」と呟いた。
でも、確かにあの宝石には、私にも見覚えがある。
淡い黄緑色のあの石は、王都で私とレオさんがオーズさんに価格調査を頼まれた宝石だもの。
鉱山では買いたたかれているのに、店頭ではかなりの高値で売られていた。
平民に勧められるような小さな石はさほどではなかったけれど、貴族に見せるような質のいい大きな石は、鉱山での買取価格から十倍ほどのありえない高値で売られていたのだもの。
大量の宝石が、買いとられて他の町に流れているせいだと聞いた。
この袋から転がり出た宝石たちは、私やお母様に紹介されたレベルの、大きくて透明度も高い美しいものが揃っている。
まさか。
「この宝石、どこで手に入れたんだ」
レオさんが、いつもの朗らさからは想像もできない厳しい顔で、リナリアさんに問う。
ハッとした顔でレオさんの手元を見たリナリアさんは、慌ててレオさんの手元の袋を奪い取ろうとしたけれど、そんなことを簡単に許すレオさんじゃない。
ひらりと身をかわし、左手で彼女の手首を採って捩じ上げる。
「いたっ……」
「リナリア! 貴様……リナリアを離せ!」
血相を変えるガルア様を一瞥して、レオさんがリナリアさんを押し戻した。
「別に彼女を捕らえたいわけじゃない。そう血相を変えなくていい」
リナリアさんを再び背後に庇って、ガルア様はホッと息をつく。油段なく剣を構えたままのガルア様は、レオさんに向かって左手を伸ばした。
「その宝石は行商の者に金を払って得たものだ。貴様らにどうこう言われる謂れなどない筈だ。返してもらおう」
「こちらはそう簡単に返すわけにはいかない。俺が調査している案件の証拠物だからね」
「どういうことですか?」
怪訝な顔でレオさんを振り返るコーティ様は、レオさんの掌にのる黄緑色の宝石を見て、納得した様にため息をつく。
「ああ……それは。もしかして」




