目障りなのよ、アンタ
混乱しきりのレオさんは、心の声がすべてオープンになっている。
それでも、刃が私に向けられていることを素早く見て取ったレオさんは、驚くほどの速度で山を駆け下り、驚くほどのスピードで間合いを詰めると、私を守るように間に割って入った。
私を庇って剣を構えたレオさんは、私と対峙している二人……ガルア様とリナリアさんを見て、再び驚愕の表情を浮かべる。
「ガルア……リナリア? なぜ、ここに……!」
「誰だ、貴様は」
レオさんに切っ先を向け、剣をしっかりと構えなおすガルア様。訝し気に目を眇めているところをみるに、ガルア様はレオ様とは面識がなかったみたい。
「ああ、君が来てくれて良かった。さすがに騎士団長の長子と一騎打ちは私には荷が重いと思っていたところです」
さりげなく、コーティ様もレオさんの横に並び立つ。
武器など持っていないように見えていたのに、ローブの中にすっと手を入れて取り出したのは、長くてしっかりとした太さもある、使い込まれた鞭だった。
コーティ様って魔法系ではなく、武闘系だったのね……とちょっと驚いてしまった。
「え? コーティさん……? なにが、どうなって……?」
理解が追い付かないレオさんは、ちらりと横目でコーティ様を見遣るけれど、コーティ様はまっすぐにガルア様を見据えたまま。
「話はあとで。今は騎士団長の御子息に、剣を収めてもらうことの方が大事です」
一瞬だけ複雑な表情をしたレオさんは、それでもコーティ様の意見に賛同したのか、まっすぐにガルア様を見つめ、剣を構えなおす。私の前には二つの広い背中。
頼もしさにホッと息をついたその時。
「……どうしてよ」
急にどこからか、低い、低い、地を這うような声が響いた。
「なんでアンタが守られて、お姫様みたいに大切に扱われるのよ……! そう扱われるべきはアタシでしょう?」
聞こえてくるあまりにも暗い声に心臓が嫌な鼓動をうつ。
「なんなのよ、アンタ。……目障りなのよ」
信じられないことに、このおどろおどろしい声は、リナリアさんから聞こえてくるようだった。
二人の背中の合間から覗き見ると、俯いたままブツブツと呟くリナリアさんの表情は、影になって見えない。
ピンクブロンドの緩いウェーブだけが、彼女の呟きに呼応するように小刻みに震えていた。
「ムカつくのよ!」
ギッと私を睨み上げた瞳は、言いようのない憎悪をはらんでいた。
さっきまでの砂糖菓子のように甘い表情ギャップが凄すぎて目を離せない。
どうして、なんて私のほうが聞きたいくらいなのに。
リナリアさんに恨まれるようなことをした覚えなんてつゆほどもない。むしろ陥れられたのも、恨みたいのだって、私のほうだと言うのに……なぜ、彼女はこんなにも憎々し気に私を見るのかしら。