え!? 嘘? なんで!?
お父様が馬も調達できない村に隔離したと仰っていたのに、どうやってここまでたどり着いたのかは分からないけれど、とりあえず今回は関係ない。
そうよね、むしろ彼女たちと長々話す必要など端からなかったのだわ。言うべきことだけ伝えたら、さっさと退散するに限る。
よし、頑張ってみよう。
私は密かに呼吸を整えると、ガルア様とリナリアさんに向かってゆっくりと口を開いた。
「ガルア様、誤解があるようなんですが、私は今も昔も、特にリナリアさんを虐げるつもりはありません。こうして直に顔を合わせるのも初めてですし」
以前、リナリアさんに踊らされていた男性陣から糾弾された時、何ひとつ反論しなかったのは大きな反省点のひとつだった。今ここで反論できるチャンスがあるのだから、実践すべきだろう。
「ふざけるな! この女狐が。ならばなぜこんなところに居る! リナリアに罪をかぶせるだけでは飽き足らず、今度は何を企んでいるのだ」
「ここへは調査のために来たのですわ。あの、正直に申しまして、リナリアさんを害しても私、なにも得することが無いのですけれど。冷静に考えてみてくださいませ、王都から遠いこの町まで、わざわざリナリアさんを害しに来る価値ってむしろなにかあります?」
尋ね返せば、ガルア様はウっと言葉に詰まった。しばし考えて、彼はかなりぶっそうな結論に辿り着いたらしい。
「まさか、殿下の寵愛が得られぬ故に、殿下の想い人であるリナリアを害しに来たのか!?」
「もう二年も前に殿下とは婚約解消しております。それはお聞きになりませんでした?」
「では、それを恨んで……! リナリア、ここは俺が抑える。逃げろ!」
腰に佩いた剣をすらりと抜いて、ガルア様は私に剣を向ける。
「ですから、もう二年も前のことですってば!」
思わず返す言葉も崩れる、驚きの解釈。ガルア様、びっくりするくらい、話が通じない!
「やれやれ、なんとも面倒な御仁ですね」
うんざりした様子のコーティ様のつぶやきが聞こえたけれど、本当にそう思います。
「なにをしている!」
いきなり、空気を裂くようなするどい声が響く。
「街中で抜刀するなんて何を考えているんだ! しかも女性に!」
声は、ここから少し山を登った、鉱山前に建てられた小屋の方から聞こえてくる。そちらを仰ぎ見れば、冒険者風の男のかたがこちらへ向かって走ってくるところだった。
あら?
あの冒険者風の男のかた……顔はまだ見えないけれど、雰囲気が……走り方にも見覚えがある。もしかして、もしかして、レオさん?
私が気付いたのとほぼ同時に、レオさんも驚愕の声を上げた。
「え!? 嘘? なんで!? クリスちゃん!?」