いや、女性は恐ろしいですね
「リナリアを虐げ、殿下から直々に謹慎を言い渡されておきながら、命を破って出奔する。あげく冤罪だのなんだのと騒ぎ立て、罪をリナリアになすりつけようとするそのしたたかさ……さすが影宰相の娘といったところか」
嫌な笑いを浮かべて、ガルア様が私を睥睨する。
そんな様子に、コーティ様が眉間をおさえながら重いため息をもらした。
「本当に、ずいぶんとクリスティアーヌ嬢を貶める発言をしますね」
「それがどうした。このような女、貴族の風上にも置けぬ」
「あなたがそれを言いますか。廃嫡された貴族、のほうが世間的に最も恥ずかしいと思いますがね。あなたに連なるものたちが、どれほど肩身の狭い思いをしているか、想像できないわけでもないでしょうに」
ガルア様の昏い目が、コーティ様を捉える。その目にはじっとりとした、嫌な光が宿っている。
「貴様、今、廃嫡を恥だと言ったな。そこの女狐と影宰相の策略から、リナリアを守るにはああするほかなかった。俺は騎士道に反するような、恥ずべきところなど何ひとつない!」
「ガルア様……!」
目にいっぱいの涙をためて、リナリアさんが感動の声をあげた。
「あの、ガルア様はわたしを庇ってくださっただけなんです」
なぜかリナリアさんが、コーティ様にむかって力説し始める。目に溜まったままなかなか流れ落ちない涙は、彼女をより健気にみせていた。
「わたしが弱かったから……悪いのは、わたしなんです。ガルア様を責めないで……」
消え入るようなはかなげな声。ついに零れ落ちた涙を恥じるように俯いたリナリアさんは、息を呑むほどに可憐だった。
初めて彼女の一挙手一投足をこんなに間近で見たけれど、殿方たちが守りたい気持ちになってしまうのも仕方がないことなのかもしれない。
「そうでしょうね、確かに貴女がことの発端なのでしょう。実に言葉巧みですね」
コーティ様がリナリアさんに微笑みかける。けれどその笑みは、なんの感情も含んでいない空恐ろしさがあった。
どうやらコーティ様には、リナリアさん渾身の涙は響かなかったらしい。
「いや、女性は恐ろしいですね」
私に同意を求めないでください。鼻白んだ様子のリナリアさんから、なぜか私が恨みがましい目で見られてますから……!
居心地が悪くて目を逸らしていたら、ふと、大切なことに気が付いた。
あら……?
よくよく考えればなにもこんなところで彼女たちと敢えて口論する必要なんてないのではないかしら。なんせ、私とコーティ様は調査のためにここに来ているわけだし。
そして、あの驚きっぷりから考えるに、リナリアさんたちも偶然にこの町にいたんだろう。