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まるで、時が止まっていたかのように。

悲し気に、大きな瞳に涙を浮かべ、リナリアさんが小動物のように震える。


その細い肩を大事そうに抱いたガルア様は、憎々し気にコーティ様を睨みつけた。



「誰だ、貴様は」



ガルア様の誰何に、コーティ様の眉がピクリと上がる。


その表情に、私は声を上げてしまいそうになるのをぐっとこらえた。


初めて見る、汚物を見るような嫌悪感を前面に出した表情だった。



「やれやれ、自身の婚約者の係累すら頭に入れていなかったとは、呆れたものです。そもそもが資質に問題のある御仁だったのですね。エールメもよくぞ難を逃れたものです、こんな男に嫁がずに済んだのはむしろ僥倖だったのでしょうね」



吐き捨てるように発された言葉のトゲトゲしさに驚いた。


でも。コーティ様はきっと、エールメ様にひどい仕打ちをしたガルア様のことを、本当はずっと怒っていたんだわ。



「なあに? このかたってガルア様の婚約者の……兄弟ってことですかぁ? そんなかたがどうして公爵家のご令嬢と一緒にいるの?」



好奇心を抑えきれない様子で、リナリアさんがガルア様に尋ねる。


私と顔を合わせた瞬間に発せられた口調とは明らかに違うところを見るに、さっきはつい素がでてしまったということなのかしら。


きょとんとした顔でガルア様を見上げるリナリアさんは、完璧な可愛らしさだ。


こんなに近くで彼女を見るのは、実は初めてなのだけれど、さすがに乙女ゲームのヒロインだと妙に納得してしまう雰囲気を持っている。



「そういえば、クリスティアーヌ様は今はもう公爵令嬢じゃないって。クリスって名前で町娘やってるんだって、ガルア様からそう聞いた気がするんですけどぉ」



違いました? と小鳥のように小首を傾げてみせる彼女。その姿を見下ろすガルア様は、私を見るのとはうって変わって、慈しむような瞳だった。


こんなことになってもまだ、本当に、リナリアさんのことが好きなのね……。


思わず感心していた私をいきなり睨みつけて、ガルア様は唸るようにこう言った。



「そうだ、もう権力をかさにお前を虐げることなどできん。出奔した貴族など、庶民よりもはるかに唾棄すべきものだ」



なんとなく。


なんとなくだけれど、違和感が。


その言い方って、庶民のかたまでも貶めているように思えるのだけれど。リナリアさんも心なしか一瞬だけ真顔になった気がする。



「なにか勘違いをしているようですが、クリスティアーヌ嬢は今も公爵家の御令嬢ですよ」



コーティ様が情報を正すと、ガルア様はなぜか妙に納得したような顔で瞑目した。



「出奔しておいて、咎めもなかっただと? どうりで……さては貴様、出奔をごまかすために、リナリアを陥れたのだな」



久しぶりにそんなことを言われて、私もさすがに唖然とした。ガルア様の考えは王都から逃げ出したあの時から、なにひとつ変わってはいないのだろう。


まるで、時が止まっていたかのように。

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