真昼のクーレイの町
打ち合わせを終えて、ついに私達は真昼のクーレイの町に足を踏み出した。
道中、後半になるにつれ馬車の揺れがひどくなる、と感じたのも納得の高低差の酷い高台の町。昨夜は真っ暗で分からなかったけれど、クーレイは険峻な山の麓に開かれているらしい。
あの山肌に見えるいくつかの穴は、鉱山なのかしら。落盤しないようになのか、穴には木の枠で補強がされているし、遠目で分かりにくいけれどトロッコもあるみたい。
その山に向かって細い道が伸び、両脇にぽつりぽつりと小さな家が建っている。
家と家の間が割と空いているのは、小さいながらも各家に畑や牛小屋などが併設されているせいだろう。
畑には人のよさそうなお婆さんがいて、福々しい笑顔で挨拶してくれた。
わあ、あそこは広場になっているのかしら。宿屋から少しだけ歩くと、大きめの広場に様々なお店が並んでいた。ここは市場も兼ねているのね。
「ここが市場です。ルーフェスくんはここで、定期的に大量に買い付ける人がいないか、もしくは直近でそういう行為をした人はいないかなど、参考になりそうな聞き込みをお願いします」
「なんだかお店のかたが女性ばかりですね」
思わず聞いてしまった。先ほどの宿屋のかたも道であったかたも、今まで女性にしか会っていない。割と殺風景な街並みだけれど、市場は女性たちの明るい声でとても活気がある。
「鉱山の町のようで、男性は日中は皆、鉱山に入っているようです。私とクリスティアーヌ嬢は、まずは鉱山で聞き込みをしますからね」
「やっぱり、納得いかないんだけど。コーティさんは取材慣れしてるし、手分けするなら僕と姉さんがペアで、コーティさんが単独でもいいと思うんですけど」
「聞きわけがないですね、姉上が心配なのは分かりますけれど、考えてもみてください」
食い下がるルーフェスが話を蒸し返す。そんなルーフェスに、コーティさんはもはや呆れた雰囲気を隠しもしない。
「ここへは市井官の調査員としての技術を見せるために来ているのです。調査のやり方をクリスティアーヌ嬢に見せるうえで、私とクリスティアーヌ嬢がペアなのは必須です」
「うう、そうだけど、でも」
「そんなに心配ならばいっしょにおいでなさい。朝からの調査で、レオナルドくんが危機的状況に陥ることはそうないと判明していますし、彼が宿泊している宿には伝言も伝えてあります。貴方が役に立ちたいと言うから分担して調査しようと提案しただけで、別に手分けしないとまずいと言うほど調査もひっ迫してはいません。ですから」
「わかった! わかったよ、もう!」
立て板に水、といった感じに滔々と流れ出るコーティ様の主張に、ついにルーフェスが折れた。
「行けばいいんだろ!」
ぷりぷり怒ったまま市場へ向かうルーフェスを「期待していますよ」と見送ったコーティ様は、私を見下ろすと楽しそうに破顔した。
「貴女の弟君は、口の割にはとても素直で責任感も強い、なかなか有望な人材ですよね。彼も市井官になってくれれば楽しいのですが」
「無理だと思います」
というか、姉として賛成できないです……。
コーティ様とミスト室長に、遊び倒されている未来しか見えませんもの。