大丈夫です、若いんで。
「逆に、困ったこともあるのです」
コーティ様の言葉に、私は驚いて顔を上げた。
コーティ様から、困ったこと、だなんて言葉は滅多に聞かないだけに、つい緊張してしまう。見れば、ルーフェスも真剣な顔をしていた。
「どの店の店主も、交易を自身で行ったことはないと言っていました。とり仕切るものがいないというのは逆に厄介なのですよ」
「確かに。コーティさんがそんな風に言うってことは、その各々の店主は、交易をしている人物にすら思い当たってないんじゃないですか?」
お父様の傍で政務を勉強しているルーフェスは、やっぱり飲み込みが早い。即座にコーティ様の言わんとするところが理解できたようで、とても羨ましい。
「ええ、午後から再度丁寧に状況を聞き取るつもりですが、今のところはそうです」
「農民や鉱山から直接買い付けしてるとか……」
「その可能性もあります。そもそも各店では品数も薄く、量もふんだんにはありません」
「人口が少ないからでしょうか」
ようやく、ひとこと口を挟めた。二人の会話は流れが早くて、ついていくのも大変だ。
「そうです、そもそも取り扱う量が少なくては、交易に回すぶんを確保するのが難しい。レオナルドくんも、どうやら交渉相手を探して苦労しているようですね。市場では見かけませんでした」
レオさんの話題が急に復活してきて、一瞬どんな顔をして良いのか分からなくなる。レオさんも苦労しているのなら、少しでも役にたてるといいのだけれど。
「ふーん、それで? これから僕らはどう動けばいいんです?」
ルーフェスの言葉に、コーティ様はからかうように微笑んだ。
「おや、もう調査に参加するつもりですか? 無理をしなくても良いのですよ」
「大丈夫です、若いんで。見ての通りかなり回復してますし……みっともない姿ばっかり見られるのはこっちも不本意だ」
ルーフェスの琥珀色の瞳が挑戦的に光る。体調が良くなってきたら、今までの自分の姿が許せなくなってきたんだろう。
これは仕方がない、なんせルーフェスは、とても負けず嫌いですものね。
「どうです、クリスティアーヌ嬢。弟君はもう調査に参加できる程度に回復しているのですか?」
キッとルーフェスが私を見る。大丈夫、そんなに必死に目で訴えなくても、不利になるようなことは言わないから。
「ええ、問題ないと思いますわ。足取りもしっかりしていますし」
そう請け負うと、コーティ様も満足そうに首肯する。
きっと、私の答えなど最初から分かっていたに違いない。
「それでは早速、午後からの調査について、話し合いましょう」