グレシオン様の謝罪
「こ…こらお前、何をさも当然のように頭数に入ってるんだ、お前は部外者であろう」
我に返ったゴツいフードのフェデルさんが慌てて止めるも、マークさんは動じない。
「ああ、俺、関係者。クリスの親御さんから正式に依頼を受けた護衛だよ。悪りぃが俺にも彼女の身を守る義務があるんでね」
グレシオン様の確かめるような視線に、私も慌てて首肯した。マークさんが護衛なのは確かな話だし、立ち会って貰った方が安心感がある。
「おいでクリス。きっちり詫び入れて貰おうじゃないか」
女将さんに促され、私も後に続いた。常連のおじさま達にエールを貰いながら部屋に入ってソファに落ち着くと、待ちきれないようにグレシオン様が立ち上がる。
「クリスティアーヌ…まずは、謝らせて欲しい。今回の事、本当に…本当に、申し訳なかった」
「グレシオン様…」
「碌に調べもせずに君に罪があると思い込み、婚約破棄と謹慎を言い渡した事…今さら取り返しがつくものではないが…」
「昨日、陛下とお話しになられたのですね?」
「ああ、途中からは読むのも苦痛なくらい、詳細に調べられた報告書付きでね。自分の愚かしさに、身が凍る思いがしたよ」
…第三者の冷静な視点で書かれた報告書か。それは辛い。夕べは眠れていないんだろう、フードをとったグレシオン様の顔は、明らかに窶れていた。
「私も、浅薄でした。あの時の私はどうせ何を言っても無駄だと諦めて、碌な主張もしなかった。邸で父に叱られましたわ、王族といえど…その言に過ちあれば、命を賭して正す事も臣下の役目だと」
「命を賭して…」
「まぁ王族に反論するのは普通は命がけだよなぁ。女将みたいに噛みつくヤツぁそうはいねぇよ」
思わず、といった風情で呟いたグレシオン様に、マークさんが苦笑しながら言い添えた。
「あたしは別に曲がった事は言っちゃいないよ」
「それでも問答無用で斬られる事もあるってことさ。王族が望まなくても、周囲が権威を守るためにズバっといく事もあるしな」
チラリとゴツいフードのフェデルさんを見たの、絶対わざとですよねマークさん。
「…そうだな。今回ばかりは本当に、王族である私が迂闊な裁定をする恐ろしさが身に沁みた」
そう言ってグレシオン様は私を悲しげに見つめた。
「時が経つにつれ…やり過ぎだったのでは、他にやりようがあったのではとあの日の事を悔いていたんだ。君の名誉を損ない、勉学の機会も奪った」