想像を巡らせてごらんなさい
「あ……」
「自分も行くと言って、絶対に譲らないと思いますよ」
コーティ様の言う通りだ。ルーフェスなら、きっとそう主張するに違いない。
コーティ様は、どうみても体調が芳しくないルーフェスに無理をさせないためにも、午前中はしっかりと身体をやすめるようにと指示してくれたのだろう。
「貴女にお願いしたいのは、まずはルーフェスくんの体調を整えて欲しいということです。彼にも意地があるでしょうが、くれぐれも無理をさせ過ぎないで。もし、午前中で回復しないようであれば、そのまま明日は休んでもらっても問題ありませんよ」
「……はい。ありがとうございます」
残念だけれど、コーティ様の言うことに理があることは分かる。私は神妙な顔で頷いた。
「今のようにね、想像を巡らせてごらんなさい」
急に、コーティ様の声がふんわりと優しい色を帯びた。
「自分が行動を起こせば状況がどう動くかも、少し考えてみれば割と想像がつくでしょう? 行動する前に少しだけ先を読むようにすると、後悔を少しだけ減らせます」
コーティ様の目には、後進を教え導くおだやかな慈愛の色が浮かんでいる。コーティ様ってとても頭が良くて、時々怖いと思う時もあるけれど、やっぱりとても優しい人なのね。
「本当ですね。私、よく考えて行動するようにします」
「ええ、頑張って。同じように、誰かが言葉を発するとき、行動をおこすとき、その裏にはいくつもの思いや考えがあるものです。貴女にも、貴女を心配して思いやってくれるたくさんの人がいるでしょう? ルーフェスくんだってあんな思いをしながらも、貴女を心配してついてきた」
はっとする思いだった。
まるで走馬灯のように、これまで出会ったたくさんの人たちの顔が思い出される。
ルーフェスやお父様、お母様、邸の使用人たちはもちろん、女将さんやマークさん、セルバさん、学園の皆……そしてレオさんも。私の周りにはいつだって思いやってくれる人たちが確かにいる。
「そんな周囲のかたを大事になさい。人が自分のことを思ってやってくれたことは、意外と気が付きにくいものです。多分ね、十の思いやりを受けても気づけるのはそのうちひとつくらいですよ」
「そ、そんなに?」
「ええ。十、二十と親切にしても気づいてもらえるのは一割ですからね。確かです」
腕組みで深く頷くコーティ様の姿が何だか面白い。思わず笑ってしまった私に、今度は真面目な顔でコーティ様が囁く。
「悪意もね、同じです」
ドキリとした。




