お二人は体調を回復させてください
「うーむ、少し無理をさせ過ぎてしまったようですね」
コーティ様も、心配そうにルーフェスを見ている。どうやらさすがに責任を感じているらしい。
「クリスティアーヌ嬢」
「はい」
「今日は揺れない寝台ですから、心ゆくまでゆっくりとおやすみくださいね」
「はい、たっぷり寝ます! 明日からはいよいよ調査ですね」
「ええ。ですが、お二人は少なくとも昼までは宿の部屋でやすんで、体調を回復させてください」
「ですが、情報収集は手分けして行った方が効率が良いと思うのですが。せっかく連れてきていただいたのですから、私、頑張ります」
「気持ちは分かりますが、まず最優先で集めたい情報はレオナルドくんがこの町に入ったか否かと、このクーレイで物流を取り仕切っている輩と既に交渉を始めているかです。それくらいは私だけでも、午前中に情報収集できますからね。あなた方は午後からでも、なんなら明日からでも充分です」
「ですが……」
なおも食い下がろうとした私に、少しだけ微笑してコーティ様は足をとめた。つられて、私も足を止める。
立ち止まったまま、コーティ様は視線をゆっくりと前に向けた。
コーティ様が見つめる先には、御者さんに支えられて、ふらつきながらも宿へと歩くルーフェスがいる。ようやく宿の扉にたどりついたルーフェスの背中を見送って、コーティ様は口を開いた。
「貴女の気持ちは分かります。役に立ちたいでしょうし、レオナルドくんのことも心配でしょう。朝から調査に加わることができるだろうことも理解できますよ」
ならば、と言いたいところだけれど、私はぐっと言葉を堪えた。私の気持ちを分かっていて、それでもコーティ様がとめるには、きっと理由がある筈ですもの。
「貴女とルーフェスくんの体調管理も私の仕事のひとつです。ここまで頑張ってもらいましたからね、今は体調を回復させることのほうを優先させたいのですよ」
優し気に微笑むコーティ様は、道中のスパルタっぷりが夢だったように、慈愛に満ちている。
「それに、貴女は少々無理をすれば、明日も朝から動けるかもしれませんが……ルーフェスくんはどうですか? 明日の朝から動けそうでしょうか」
さっきのふらつき加減を見ていたら、とても無理に思える。
ルーフェスが大丈夫だと言ったとしても、少しでも体を休めて欲しいというのが本音だ。やっぱり、心配ですもの。
「無理だと、思います」
「そうでしょうね、私もそう思います。ルーフェスくんのほうが貴女よりはるかに疲弊している」
コーティ様も、深く頷いた。
「ですが、貴女が調査に行くと言えば、ルーフェスくんだって黙っていないでしょう」




