ついにレディのような扱いに
「私が先に降りて、御者と宿の手配をしてきます。お二人はゆっくり降りてきてくださいね。足元もおぼつかないでしょうから」
そう言い残して、コーティ様はあっという間に馬車をあとにする。本当にたいして疲れていないみたい。その後ろ姿が宿屋に入っていくのを見ながら、私はうーんと大きく伸びをする。
やっぱり、揺れていないって素晴らしい。
足元に気をつけながらゆっくりと馬車をおりると、もうひとりの御者さんが二頭のお馬さんたちにお水を飲ませているところだった。思えばこの方たちとお馬さんたちが一番大変だった筈だ。
交替で休みながら、昼夜を問わず馬を走らせるのですもの。
中継地点の街や村で、私たちが休んでいる間に替えの馬を入手してくれていたのも彼らだった。本当に感謝しかない。
「長旅の間、本当にありがとうございました。おかげさまで無事に、こんなにも早くクーレイに辿り着くことができました」
深々と頭を上げたら、慌てたように御者様が「とんでもない! 俺はこれが仕事なんで」と謙遜するけれど本当にありがたいのですもの。
「いや、ほんと凄いよ。ありがとう」
小さな声で、ルーフェスも御者さんにお礼を言っている。自分が苦しかっただけに、あの悪路を馬を駆って走らせ続けることの大変さを感じたのだろう。
「大丈夫?」
足元がおぼつかないルーフェスが心配で、思わず手を差し出そうとしたら、御者さんが素早く駆け寄って来て「すみません! 私が」とルーフェスを補助しようとする。
「……!」
差し出される手を見て、ルーフェスの眉がちょっと下がる。その瞳からは、不本意だ、でも足元がヤバイ、と逡巡する心の内が透けて見えるようだった。
「大丈夫ですか? ついにレディのような扱いになっていますね」
後ろから、驚いたようなコーティ様の声が聞こえた。ルーフェスが御者さんの手を取るか迷っているうちに、コーティ様は宿の手配を済ませて戻ってきてしまったらしい。
嫌なところを見られてしまった、とルーフェスが顰める。
でも、逆にそれでふっきれたのか、一つ溜息をつくとしっかりと御者さんの手を握った。
「申し訳ないけど、宿まで頼む」
意地っ張りなところもあるルーフェスがこう言うんですもの、よほど苦しかったに違いない。
実際、御者さんに手をとってもらったというのに、ルーフェスは馬車を降りようとして膝がガクリと崩れていた。
宿までの道もよろよろと終始足元が怪しくて、御者さんがふらつくルーフェスの勢いに引っ張られて一緒によろめくほど。
私は心配だけれど手をだすこともできなくて、後ろからハラハラヒヤヒヤしながら見守るしかできなかった。




