ね、姉さん……恥ずかしいから……
「セルバさんが、長旅なら回復掛けといた方がいいよね、って」
「まさかあの、循環式の回復魔法? 前に姉さんが倒れた、あの?」
しまった、ルーフェスには言わないでおこうと思ったのに。慌てて私は言い訳を口にする。
「もう治験も済んで、安全性も確立されたそうよ? おかげでほら、疲労回復も早いの」
じとっとした目でルーフェスが私を見る。ゆっくりため息をつくのが怖い。
「……報告は受けてるから、別にもう怒ってないよ、その件は」
「そうなの!? 良かった」
「むしろ、僕にもかけて欲しかったなって思ってる。こんなに違いが出るなら」
なんという心境の変化!
ルーフェスったらいつの間にそんなに寛容になったのかしら。嬉しくなって、私はうきうきと魔力を練った。
今では随分とうまくなり、セルバさんにもお墨付きをいただいた回復魔法を、ルーフェスに向かって丁寧にかけていく。
ふんわりと、優しい光がルーフェスを包んでキラキラと光りを放っては消えていく。いつも思うけれど、とても綺麗。
「姉さん、今の」
「セルバさん直伝の回復魔法よ。循環式なんて難しいことは私にはまだまだ無理だけれど、何もしないよりは、疲労もとれるし体力も回復するかと思ったから」
「……あれに懲りずに、魔法の訓練を続けてたわけだね」
ルーフェスが半目で睨んでくる。
だって仕方がないんですもの。レオ様、遠征が多くていつ大ケガして帰ってくるか分からないから、少しでも役に立てることを覚えておきたいんだもの。
「まあでも、体はすごく軽くなった。……ありがと」
少しだけ視線を逸らして、ルーフェスが呟くように言う。確かに、足元はもうふらついていなかった。
……素直なのか素直じゃないのか微妙なラインの態度が、なぜかとても可愛いと感じるのは、姉のひいき目なのかしら。
「君たち姉弟は、仲がいいのですね」
「……!」
コーティ様の言葉に、思わず息をのんだ。なんという、嬉しいお言葉……!!!!
「そ、そう見えますか……!」
つい声が上ずってしまった。コーティ様はそう言いつつもとても意外そうだったけれど、それでもものすごく嬉しい。
私とルーフェスが仲良く見えるだなんて、本当かしら。
私の意固地な思い込みのせいで、二、三年前まで、ルーフェスとは言葉を交わしたことさえ少なかったというのに。
「おや、随分と嬉しそうですね。弟と仲が良いと言われるのは、そんなに嬉しいものですか?」
「はい、とっても! ありがとうございます!」
「ね、姉さん……恥ずかしいから……」




