でも私、どうしても行きたいの。
「だいたい、市井官の調査員の見学だか実地訓練だか知らないけどさ、そんなの王都でもできるだろ。なにもそんな危ないところに行かなくても」
「いやあね、ルーフェスったら。そこはミスト様の恩情じゃないの。せっかくの長期休暇ですもの、恋人と一緒に過ごさせてあげようと言う心づかいだわ」
「そんな恩情いらないでしょ」
「まぁ、昔からミスト様はそういうところ、とても気の利くおかたでしたもの。ねぇ、あなた」
「う……うむ」
お母様に急に話を振られて、お父様はとても歯切れの悪い返事をしている。
これってあれかしら、ミスト室長に以前きいた、お父様とお母様のロマンス的なお話よね。もしかしてミスト室長も、何か関わっていたのかしら。
そうだとしたら、ミスト室長がお父様に顔が利くのもわかるというか。
「とにかく! わざわざそんな僻地まで行く必要性を感じない。話を聞く限り、むしろ安全性に問題ありな土地だろう? 僕は反対だ」
「町自体の治安が特別に悪いわけではないのです。オーズさんが心配していたのは、レオ様と地元の業者との衝突なので」
「そんなの、知ってるけどさ……」
小さな声で呟いてルーファスは唇を尖らせているけれど、拗ねたいのはこちらのほうだわ。
さほど治安が悪くないのを知っていながら、詭弁を弄して止めようとするだなんて。
ごめんねルーフェス、心配してくれているのは分かっているけれど、でも私、どうしてもクーレイに行きたいの。
「以前よりは私、魔法も護身術も上達していますし、なにより市井官は市井での調査のために基本、腕がたつかたばかりと聞いています。同行されるかたもミスト室長が選ばれるのですから、安心かと思うのですけれど」
「その油断が危険なんだってば」
どこまでも反対するルーフェスをちょっと睨んだら、とっても気まずそうに目を逸らされてしまった。こちらもバツが悪いけれど、でも、ここだけは退けない。
そこに、お母様の助け船が入った。
「私は行かせてあげていいと思いますわ。第一、こんなにも普段会えないだなんて、新人のレオくんを働かせすぎなのではなくて? こんなにも遠征に出ずっぱりだなんてあんまりですわ」
「私を睨んでもしかたあるまい」
お父様が居心地悪そうに視線を逸らすけれど、お母様はわざわざお父様の視界に入る場所に移動して、可愛らしくお父様を睨んでいる。
「お願いします、お父様」
一生懸命にお父様にお願いする。
「うっ……二人して、そんな目で見るでない」
私とお母様の視線に耐え兼ねたように、ついに、お父様が両手を上げた。




