そんな心配そうな顔するんじゃねえよ
その週の終わり、私は民生官のオーズさんのところにお邪魔していた。
お母様と一緒に回った宝飾店の市場調査の報告と、ミスト室長&コーティ様から頼まれた根回しも兼ねて来たのだけれど、思いがけない方向に話が流れている。
「ほう、じゃあこのところ遠方の街の物品が急に入り始めたのは、あのレオとかいう兄ちゃんが交易路を開拓してるせいだっつうことか」
「全部じゃないかもしれないですけど……武器屋さんにも、そんな実感があるんですか?」
「当たり前だ、以前は手に入りにくかった鉱石が、これまでの半値で定期的に入るようになったからな、安定して加工ができるようになった」
うわぁ、レオさん、本当にすごい……! 色々なところに影響がでている!
「ただなぁ、足元見たようなバカだかい価格で入って来てる鉱石もあるっていうからな、良し悪しって感じだな」
「そうなんですか……」
「まあ、山賊がでる地域もまだ多い。運搬コストもあるからある程度は仕方ねえんだがな」
そうね、以前レオさんも怪我をしていたし、私も実際襲われたこともある。
まだまだ交易はリスクが高い。運搬費だけでなく護衛費だってかかるだろう。かかる日数も考えれば、価格が高いものが多いのは道理なのかもしれない。
「値が高くとも、レアな鉱石が入ってくる方がありがたいんだがな。ちなみに」
「はい」
「あの兄ちゃんは今もどっかの街に行ってるのか? この前宝飾店の価格調査した一覧表だけ持ってきたが、旅支度だった」
「はい、西のクーレイに行くと聞いています。……遠くて、ひと月は帰れないと」
「クーレイか」
「はい、どうかしました?」
途端に険しい表情になったオーズさんに、私も怪訝な表情になってしまった。
「いや、さっき『足元見たようなバカだかい価格で入って来てる鉱石』があるって言ったろう。あれが、クーレイからのルートで入ってきたモンだったような」
「ええ!?」
「まだあの兄ちゃんはクーレイに辿り着いてねえ頃合いだろうが……ちと、マズいな」
レオさんが開拓したルートなのに、価格が適正じゃないという話かと思ったら、どうやらそうではないらしい。
なのに、まずい、とはどういう意味なんだろう。
気になってしまって、私はストレートに聞いてみることにした。
「オーズさん、まずいってどういうことですか?」
「いや……今、高い価格で鉱石を取引して稼いでる奴らがクーレイにいるってワケだろう。鉢合わせて厄介なことにならねえといいが。石を扱うやつは荒くれも多い」
オーズさんの苦い顔に、私まで青くなる。
「先だってクリスとあの兄ちゃんに調査してもらった案件も、どうやら裏じゃそのクーレイって街に結構大量に宝石が流れてるせいで、王都では品薄になって価格が上がってるって側面もあるみてえでな……気になってはいたんだ」
渋い顔をしていたオーズさんは、私の顔を見ると急に豪快に笑い出した。
「そんな心配そうな顔するんじゃねえよ。まあ、交易路の開発なんざ他のところも似たようなモンだ。あの兄ちゃんは腕にも自信がありそうだったからな。大丈夫だ!」
不安を体から追い出すように背中をバンバン叩かれてそう言われても、一度心配になってしまうと、もくもくと不安が雲のように膨らんでいく。
レオさん、大丈夫なのかしら……。




