お二人がお友達で良かった
「クリスティアーヌ様、もうちょっとだけ時間、大丈夫です?」
カーラさんの問いに「もちろん」と答える。少しだけ後ろに視線をおくれば、護衛のかたも薄く頷いた。
こちらの様子をしっかりと判断して、馬車の手配はもちろん、二人を目立たないように送り届けてくれるところまでしっかりとやってくれる筈だ。
「じゃあ、ちょっとだけ市場を見ていきません?」
「あ、そうよねぇ、レオ様の活躍で市場の品ぞろえが変わってるかも知れないものねぇ」
えっ……まさか、私のため?
驚きで目をしばたたかせる私の手をひいて、カーラさんが市場へ向かって走り出す。
「行きましょう!」
「あっ、待ってよー、食べたばっかりなのに。走らなくても市場は逃げないしー」
エマさんの言葉に構う様子もなく、カーラさんはぐいぐいと私を引っ張って走った。
市場は仕事帰りの人達でにぎわっていて、あちらこちらから美味しい匂いがしている。きっとここで今夜のおかずを買って帰る人も多いんだろう。
「うわあ、本当に見たことない果物がいっぱいだ!」
露店の果物屋さんを見れば、確かに色とりどりの果物が店先にたくさん並んでいる。
その向こうの八百屋さんにも……たくさんの見慣れた野菜たちが大量に並ぶ一角に、『新入荷!』と大きな見出しをつけて『揚げ物に! ウウェア産ナッシ』『生で美味しい、ジュアン産ラート』『炒め物から煮物まで、ジュアン産ゴマウリ』などなど、ひとつひとつの野菜を紹介するコーナーが作られていた。
「すごい……!」
「おじさん、変わった野菜がたくさんあるのね!」
「ああ、この頃遠くの街の品物が安く入るようになってねえ」
呆然とした私の横で、カーラさんが元気よくお店の人に話しかけて返ってきた答えは予想通りのもので、じんわりと嬉しさが込み上げてくる。
食べ物だけじゃなく、雑貨や骨とう品にいたるまで、幅広く品ぞろえが増えていることに、町の人がそれを嬉しそうに話すことに、私は感動を禁じえなかった。
「これって、きっとレオ様のおかげですよね!」
「はい……!」
カーラさんのいう通りだと思う。レオ様ってすごい、まだ王城に勤めはじめてまだ半年足らずだというのに、もうこんなにも町の人達の暮らしを変えているんだわ。
「良かった」
ホッとしたようにカーラさんが笑うから、不思議に思って小首を傾げる。カーラさんはエマさんと顔を見合わせて、嬉しそうに破顔した。
「少し吹っ切れたような顔になったから」
「そ、そうかしら」
「レオ様が忙しくって、会えないのってすごく寂しいと思うし、不安だと思うんですけど……そのお仕事の結果が見えればちょっと安心するんじゃないかと思ったんですよね!」
「大成功だったねー」
「カーラさん、エマさん……!」
なんて優しい人たちなんだろう。ちょっと鼻の奥がツーンとしてきた。
「ありがとう……!お二人がお友達で良かった」
二人に励まされて、沈んでいた気持ちもふわふわと浮かんでくる。
私、いいお友達に恵まれたなぁ……。




