愚痴ってスッキリすればいいんです!
「しかもレオ様の前で泣いてしまって。かなり困らせてしまいました」
そのまま話す機会もなくレオさんが旅に出てしまったから、モヤモヤしたまま今に至っている、今度は西のクーレイとかいう街に行くから、ひと月は帰らないと、伝令だけがとんできた。そう話すとカーラさんとエマさんは納得、という様子で首肯した。
「なるほどですねぇ、それは気になります。だってお話できてないんですものねえ」
エマさんは何度も何度も頷きながら、そう同意してくれる。
そうなの、きっとお話しできていないから、こんなに気持ちがざわついたままになってしまっているんだわ。
「ひと月でしょう? 今週末からって、せっかくまる一カ月も学園が休みなのに、会えないなんてもったいないですね」
「夏休みがまるっとダメじゃないですか! 酷くないですか!?」
カーラさんとエマさんの言う通り、せっかくの大きなお休みも、レオさんがいなくてはちょっとした時間をつくって会う事すらできない。
「愛想を尽かされていないといいのですけれど」
私と紅月祭に出るために頑張ると言ってくれたのに、会えないと寂しがるのも理不尽な気がして、自分の身勝手さに嫌気がさす。無意識にまたため息が出て、二人から笑われてしまった。
「気になってるなら会いに行っちゃえばいいんじゃないですかぁ?」
「レオ様、学園にいた時もモテてましたから、旅先でも油断できないかも。近くで見張らないと」
「身分に関係なく、誰にでも優しいしねぇ」
「身分とか知らなくても、充分魅力的ですよね」
「行けるものなら行きたいですけれど……だって遠すぎるのですもの」
エマさんもカーラさんも、もうそれくらいにしてください……。そんなこと、私も分かっているのです、それもあって気持ちが落ち着かないんですもの。
「あ、余計に落ち込んじゃった」
「ごめんなさい、クリスティアーヌ様」
「いいのです。お二人が仰ったようなことを無意識に考えて、私、落ち込んでいたのだと思います」
力なく笑えば、カーラさんが「よし、任せて!」とテーブル越しに私の肩を優しく叩く。
「クリスティアーヌ様、生徒会のお仕事終わるの何時です?」
「……十九時くらいでしょうか」
「じゃあ、私の修練が終わるのも同じくらいの時間ですし、何かおいしいもの食べて帰りましょ! こういう時は甘ーい、美味しいもの食べて、愚痴ってスッキリすればいいんです!」
「カーラさん、素敵」
力強い言葉に惚れ惚れする。私のために時間を作ってくれるだなんて、カーラさん、なんて優しい人なのかしら。
「えっずるい。私も行きたい!」
「別にいいけど、待ってないといけなくなるよ?」
「資料室で恋愛小説読んでおくから平気! ねえクリスティアーヌ様、先週カフェ・ド・ラッツェで、また新作ができてたって聞いたんです! 私もう、行ってみたくて」
「主題がすでに『クリスティアーヌ様、元気出しましょう会』じゃなくなってるんだけど」
カーラさんが呆れたように言うけれど、私はなんだかもう、エマさんがあまりにも嬉しそうだからちょっと楽しくなってきてしまった。こみあげてくる笑みが抑えられない。
「ふふ、いいのです。私、とっても食べてみたくなりました」
おいしいお食事やデザートだけなら、お屋敷のシェフやパティシエだって超一流ですもの、けして負けない物を作ってくれるだろう。
でも、カーラさんやエマさんの笑顔が、きっと今の私のもやもやを吹き飛ばしてくれるに違いない。




