妬ける……
「すみません、お待たせしてしまって」
レオさんの後ろ姿を少しだけ見送ってから、振り返ってコーティ様に改めてお詫びしたら、コーティ様はなぜか視線を逸らしている。
「コーティ様?」
呼びかけると、こらえきれないように「ふふっ」と笑いを漏らすコーティ様。
「あの……」
「いや、必死ですねぇ。ちょっと意地悪したくなってしまいますよ」
「な、なにがでしょうか」
コーティ様の意地悪だなんて怖すぎる。
「ふふ、そんなに警戒しないでください。でもクリスティアーヌ嬢は真面目ですね。まだ配属になっているわけでもないのですから、今日はここまでにしても良かったんですよ?」
なんだか軽く話をはぐらかされてしまったけれど、つっこんで聞くのも怖い気がする。
「そんな。こちらが無理を言ってお願いしているのですもの、そんな勝手ばかりはできません」
「責任感があってなにより。それでは遠慮なく、時間までは拘束させてもらいましょうね」
そう言ってにっこり笑ったコーティ様に、その後の二時間、いつもに増してみっちり教えを受けた事は言うまでもない。
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「今日は仕事中に顔を出してごめん、怒られなかった?」
レオさんいきつけのレストランでお食事をいただいたあとの帰り道、邸へと送ってくれる途中の馬車の中で、レオさんは「気になってたんだ」と切り出した。
「いえ。コーティ様は、まだ見学なんだから帰っても良かったのにって言ってくださったんですけど、やっぱりそういうわけにもいかなくて」
「そうだよね、俺も会いたい一心で迂闊なことしたなって反省した」
コーティ様にも謝っといてね、とバツが悪そうに苦笑するレオさんが、ちょっと可愛い。
「大丈夫です、少し癖があるけれどコーティ様は優しいかたなので」
そう答えたら、なぜかレオさんの唇が僅かにへの字に動いた。
「妬ける……」
「えっ」
「クリスちゃんはちょっと警戒心がなさすぎると思うよ?」
「どうしたんですか、急に。今の話の流れで意味が分からないんですが」
「すごくコーティさんと仲良さそうだったからさ。ずいぶん楽しそうに話してただろ?」
言った瞬間、レオさんはハッとしたように目を見開く。
次いで、しまった、とでも言いたげに顔を手で覆ってしまった。
「ああ~、俺カッコ悪い。めっちゃ嫉妬してる」
手のすきまから見えるレオさんの頬が若干赤いのが見えて、逆にときめいてしまった。
今日はむしろ叱られていた時間のほうが長くて、そんなにコーティ様と楽しそうにお話しした覚えもあまりないのだけれど、レオさんにはそう見えたのかしら。
でも、そういえば私もついさっき、レオさんが女性と話していただけでモヤモヤしてしまったのだから、おそらく同罪だ。
せっかくだから、あの女性のことを聞いてしまってもいいだろうか。