やっと会えた
「先程のような小物に怯えていたのがウソのように、そのうち手のひらで転がせるようになるはずです。楽しみにしていてくださいね」
それは、素直に楽しみにして良いものかどうか……。
「利用しようと近づいて来たものは、利用してやればよいのです。誠実な人には誠実に対応すれば良心の呵責もないでしょう? 状況や人物の見極めも、市井官には大切なスキルですよ」
「はい……!」
とても難しいことのように思えるけれど、それでも、コーティ様が言うように、見極めのスキルが重要だというのは理解できる。
上申された案件を調査して、差し戻すか対応するかを見極めるのも、市井官の大切な仕事の一部なのだから。
「このスキルは日常的な観察力がモノをいいます。いつも心がけておくことです」
「はい、頑張ります!」
私の返事に、コーティ様は黒くない笑みを浮かべた。
「……その素直さも、貴女の大きな武器ですね。頑張って、私もミスト室長も期待しています」
叱られてしまったけれど、その上で、期待しているとも言って貰えた。
私……私、頑張ろう。
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「クリスティアーヌ嬢!」
「レオ様!?」
大量の書物たちを所定の位置に返し終えて、やっと書庫から出てきたら、なんとレオさんが扉の外で待ってくれていて、驚いてしまった。
「良かった、やっと会えた……!」
ほっとしたように笑って、レオさんが近づいて来る。
「遠征から戻っていたんですね」
「ついさっきね。グレースに聞いたら、今日は市井官の仕事の見習いとして城に居るっていうから」
レオさん、もしかして私を探して会いに来てくれたの……?
嬉しい。
ものすごく嬉しいけれど、でも今は仕事中だもの。
無理を言ってお仕事を見せていただいているのに、ここで時間をとるわけにもいかない。
「おかえりなさい、レオ様。あの、私、あと二時間くらいかかるのです。出来たらでいいのですけれど、そのあとでお話……いいでしょうか?」
せっかく来てくださったし、会うのだって久しぶりだから、やっぱりちゃんとお話ししたい。
でも、旅から帰って来たばかりのレオさんに無理をさせるのが申し訳なかった。
「そっか……今は、市井官の仕事を見学してるんだもんね」
レオさんがちらりとコーティ様を見て会釈すると、コーティ様もにこりと微笑んで会釈する。
レオさんはコーティ様のことを知っているような口ぶりだったけれど、顔見知りではなかったのか、特に言葉は交わさないまま、私へと視線を戻した。
「俺もいったん報告に戻らないといけないから、仕事が終わったら落ち合おう。いつもの御者を王城の前に待たせておくよ」
「はい」
「では、お仕事中失礼いたしました」
コーティ様に折り目正しく一礼して、レオ様は颯爽と去っていった。
せっかく来てくれたのに、なんだか申し訳ないけれど、こればかりは仕方がない。