シャンと背筋を伸ばしなさい
「大丈夫ですか? こんなことがないよう、貴女を一人にしないように気を付けていたのに……申し訳ありません、私が迂闊でした」
心配そうなコーティ様に、彼とどんな話をしたのかを詳細に聞かれて、私は聞かれるがままに話の流れをできる限り正確に報告する。
一通り聞き終わったコーティ様は、安心したように「良かった」と呟いた。
「すみません、私、なにがなんだか。一人にしないようにって……どういう意味でしょうか」
困惑する私に、コーティ様は苦笑しながらこう説明してくれた。
「貴女は公爵令嬢ですから、王城には利用したいと考えている者も多いのですよ。公爵に取り入りたいものや、便宜を図ってもらいたいという輩も多いのですが、公爵は取りつく島もないですから。この機に娘の貴女をターゲットにしようとしているのでしょう」
「そんな……私、ご迷惑を……」
そんな意味でもご迷惑をかけているなんて思ってもみなかった。
本当に何をするにも誰かに迷惑をかけてしまう。さすがに落ち込んできた。
「そうやって気にするだろうと思ったから、貴女には内緒にしていたのです。この際だから言っておきますが、貴女は細かいことを気に病みすぎです。顔を上げて、シャンと背筋を伸ばしなさい」
珍しいコーティ様の厳しい声に、私は弾かれたように顔を上げた。
「最初に言ったでしょう、貴女が市井官になることは、私たちにも平民の生活にも利があることです。私もミスト室長もそう判断したからこそ、この程度のリスクは織り込み済みで貴女の見学を受け入れています。貴女が気に病む必要など微塵もない」
真正面から私を見据えて、コーティ様はさらに声に力をこめた。
「まだ貴女にはああいう輩をあしらうだけのスキルがない。しかも基本的に人の役に立とうと思うお人よしです。しかもなぜか自分に劣等感がある。現状では絶好のカモです。だから守っている」
ですが、とコーティ様は厳しい目のままモノクルを押し上げる。
「私たちもいつまでも貴女をその状態のまま、大切に守るつもりはありません」
「は、はい……!」
コーティ様の言葉の強さに、私は思わず返事をしていた。
「私たちは貴女が既に持っている武器を評価しています。平民に紛れて生活した経験と、公爵家令嬢としての後ろ盾……それに、今では民生官とも関係性を築こうとしている。女性であることも含め、他の市井官にはない、立派な武器だ」
「私の、武器……」
「それらを存分に利用しながら、市井官としてこの王城で戦っていける人材に育てていこうと思っていますから、そのつもりで」
ちなみに、とコーティ様は言葉を切る。
「人あしらいのスキルは、ミスト室長が責任もって教えてくれるそうですよ」
急ににっこりと微笑んだコーティ様の顔には、多分に黒いものがちらついていた。