せっかく、会えたのに
まさか、レオさん!?
キョロキョロと辺りを見回すと、階段の下のホールに久しぶりに見る柔らかな黒髪が。
「レオ様……!」
帰って来ていたのね!
嬉しくて駆け寄りたい気持ちをぐっと抑える。なんせ今はお仕事中ですもの。
それに、レオさんと今お話ししている女性が、とってもキツい目でこちらを見ているから、足だってすくんでしまう。
あのかた、どなたなのかしら。
燃えるような赤毛がとても印象的な綺麗なかた。お仕事の関係、のかたよね?
不安で目が離せない。見上げるレオさんの後ろで、赤毛の美女がレオさんの袖を軽く引いた。
胸がツキン、と痛む。
レオさんがハッとしたようにそのかたの方へ顔を向けた瞬間、私にも声がかかった。
「どうしました? 足が止まっていますよ」
数歩先で、コーティ様が不思議そうに私を見る。そう、私も気を取られている場合じゃなかった。
「すみません、すぐに」
ワゴンを押して、小走りにコーティ様についていく。
せっかくレオさんに久しぶりに会えたのに、こんなに寂しい気持ちだけが残るなんて……。
書庫の中に入った私は、コーティ様に「こっちをお願いしますね」とワゴンごと託された大量の書籍たちを、ひとつひとつ場所を確かめながら丁寧に棚に戻していく。
地味な作業だけれど、モヤモヤした気持ちを抱えたままの私には、一人でできる単純作業がむしろありがたい。
資料番号を確認しては所定の棚に戻していく作業を黙々と続け、ワゴンもだいぶ軽くなった時だった。
「これはこれはクリスティアーヌ嬢」
書庫だからか、密やかな声でそう声をかけられて振り向くと、四十代後半に見える少しきつめの顔立ちの男性が、私を見ていた。
「ここで会えて幸運だよ、君と話をしてみたかったのでね」
私の返事を待たず近づいてきた男性は、ワゴンの中から書物をひとつとって片付けを手伝ってくれようとする。
「あっ、申し訳ありません、大丈夫ですから」
「いやいや、せっかくのご縁だ、これしきの手助けはわけもない。その間だけ君と話ができると嬉しいのだが」
彼の狐のように細い目がさらに細められる。
笑顔だしフレンドリーな口ぶりだけれど、なんとなく感情が読めないかただ。
それでもせっかく手伝うと申し出てくださったのだから、お断りするのも申し訳なく感じた。
「ありがとうございます。それでは、資料番号の通りに棚に戻してくださいませ」
「承知した。しかし君はさきほどコーティとともにいたね。どうやら市井官を目指しているという噂は事実のようだ。クリスティアーヌ嬢が市井官の仕事を見に王城へきているとは聞いていたものの、なかなか姿をみかけないもので事実か否か疑っていたのだよ」
「なにか御用でしたか?」
このかたとは初対面のはずなのに、なぜ探されていたのかしら。