難しいものなの?
「……奇遇ですね、私も今、まったく同じことを考えていました」
フッとコーティ様の目元が緩んだ。その優し気な空気に勇気を得て、私は考えていたことを訥々と口にする。
「実は今回、宝飾店に調査に入ったので、オーズさんは悪目立ちしない人材の確保に困って、私に声を掛けてくれたようなんです。協力して調査できれば、そんな弊害もないと思うのですが」
「同感です。こちらは逆に、平民に紛れるのに意外と苦労するんですよ」
「ちょっとした所作にでちゃうからねぇ」
ミスト室長もうんうん、と深く頷いている。ベテランの市井官はその術も心得ていくものだけれど、新米だと最初につまづくポイントの一つらしい。
「こちらも常に人材不足だし、もう少し民生官との距離を詰めていくのが得策かも知れないねぇ」
「ええ、障害は多いでしょうが、今後の王政の行く末を考えても、そうすべきでしょうね」
渋い顔で交わされるお二人の会話に、私は違和感を感じてしまった。
「あの……、それって難しいことなのですか?」
オーズさんは一度懐に入れた人に対しては、とても面倒見がいい頼りになるおかただ。
お互いの仕事がやりやすくなる提案に、拒否反応を示すとは考えにくい。
そう伝えると、ミスト室長は困った眉毛のまま、ひとつウインクした。
「彼はそうかも知れないねぇ。だが、世の中変化を嫌う人間のほうが多いものだよ」
「民生官で言えば、これまで調査せずに丸投げで上申していたタイプは反発するだろうし、逆に市井官の中にもまだまだ平民の力を侮っている輩も多いのですよ」
ミスト室長のお言葉にコーティ様も同意を示す。
「まあそういうアンポンタンは数年で自分たちの愚かさを体感するだろうけどねぇ」
「王政の方針がはっきりと打ち出されましたからね。平民や女性が文官に多く採用されてくれば、おのずと危機感はでると思いますが」
「小賢しいやつらは、そういう新しいメンツの力を発揮させないように水面下で動くだろうし、面倒なことだねえ」
ミスト室長がお手上げポーズをして見せれば、コーティ様も思慮深げに腕組みで唸る。
「私達の部署は平民との関わりが多い分、他の部署に比べればまだ平民の力を認めている者も多いですし、その者たちの手を借りながら内部から意識を変えていくことが急務でしょうね」
「長らく続いていた習慣や考えかたを変えるのは難しいものだからねぇ」
矢継ぎ早に交わされる話を、私はただ一生懸命に聞く事しかできない。同じ問題にあたっている民生官と市井官ですら協力して案件を調査するのが難しいだなんて。