毎日が勉強です。
「すごい……」
「でしょう! お気に入りの職人さんが、半年もかけて丹精込めて作ってくれたのよ。素晴らしい出来でしょう~!」
まるで自分が褒められたかのように喜ぶお母様の表情に、こっちまで心が明るくなる。レオさんと会えなくて沈んでいた心に、ぽうっと灯がともったみたい。
「こんなに優れた職人さんを抱えているっていうのも、商いをなさるかたには効くものなのよ。きっとこの情報欲しさに、色々とあちらの情報もポロリとこぼしてくださると思うわ!」
「なるほど……」
にこやかな顔の裏に、『殿方たちを陰に日向にサポートする会』で感じたような、女性のしたたかさをしっかりと感じる。お母様、すごい。
そして、今後私が市井官として色々な調査や交渉などをしていくには、こうして相手から必要な情報を引き出すためのテクニックを学んでいく必要があるんだろう。
「ありがとうございます、お母様。勉強になります」
「あとは実地ね! さっそくお店に行きましょう? 価格の交渉も面白くてよ」
私がお願いしていた筈なのに、むしろお母様に引きずられるように、お店に向かう。
結論を言うと、オーズさん、貴族もお店のハシゴはするものでした……。
***
「あっはっは、それでそんなに疲れているのかい? 君のお母様はああ見えてタフな方だからねえ」
ミスト室長が爆笑している。お母様のこともよくご存知だったようで、笑いが堪えられない様子だったのが意外だ。
「そりゃあ僕は君の父君、母君と同世代の人間だからねぇ、君が知らないことも色々と知っているのだよ」
そう言ってミスト室長は、軽い調子でウインクする。
「君の父君はあの通りの仏頂面だが、若い時はなかなかの男前でねえ、君のお母様がそれはそれは可愛らしく猛烈にアピールしまくって、ついに陥落した折には王を始め全員が喝采したものだ」
「そんなことが……!」
初めて聞くお父様とお母様の若かりし頃のお話に、ついワクワクしてしまう。けれど、ミスト室長は唇に人差し指をあててニッコリと微笑んだ。
「おっと、あまり色々と話しては、君の父君に怒られてしまうな。この話はここまでだよ、情報とは小出しにするものだ。使うべき時にね」
そう言われてしまってはつっこむこともできない。
「次の機会を楽しみにしておきます」
そう言えば、ミスト室長は「いい子だ」と口の端を上げる。
最初は曲者だと思った室長も、交渉の場ではない部署内では、部下思いの優しい上官だ。
「ミスト室長、いつまでもクリスティアーヌ嬢を拘束しないでいただけませんか? 草案作成時に使用した資料を返却するのを手伝ってもらおうと思っているのですが」
コーティ様が扉の隙間から声をかけてくる。その背後にチラリと見えたのは、山と積まれた書籍たち。
あれを運ぶ、ということかしら。