現実はなかなかに厳しい
そう誓ったものの、現実はなかなかに厳しい。
あれから、さらにレオさんとはより一層会うのが難しくなってしまった。
「クリスちゃんの父君の期待に、是が非でも応えなきゃね!」
なんて、レオさんがとにかく張り切ってしまって、尋常じゃなくお仕事に入れ込んでいるのが原因だ。やっと遠征から帰って来たかと思えば数日したらまたすぐに遠征に出るの繰り返し。
ここ三カ月というもの、ゆっくりと会う機会もとれずに、穏やかながらにも季節は巡り、もう夏も終わろうとしていた。夏らしい思い出なんか作ることもできないままに。
まるで前世で言うところの、遠距離恋愛みたい。電話もメールもないところでの遠距離恋愛って、こんなに切ないものなのね。
お父様に認められるんだ、って張り切ってくれているのは嬉しい。
でも、やっぱり寂しいなあ……お互い目標に向かって動いていて、それは分かっているけれど。
「ふふ、悩んでいるわね。いいわねえ、青春ね」
からかうような口調に振り返れば、お母様がニッコニコな笑顔を湛えて佇んでいた。
「もう、お母様ったら。からかわないでください」
「だってクリスちゃんったら、可愛いんですもの」
コロコロと鈴の鳴るような声で、口元を抑えて笑っているお母様のほうが可愛いのですけれど。
「それよりもお母様、その恰好は?」
明らかにお出かけ用のゴージャスなドレスを着こんでいる。
デザインは派手になり過ぎないシンプルなものだけれど、生地は見たこともない光沢を放っていて、新しい素材をいち早く取り入れたものに違いない。
仕立てや素材は超一級品、見る人が見ればモノの良さが分かるというちょっとレベルの高いゴージャスなドレスだった。
「あら、いやだわ。クリスちゃんが誘ってくれたから、私、張り切って準備したのよ?」
「あ……! ありがとう、お母様」
「うふふ、商いを生業にするかたにお会いする時は、さりげなく宣伝したいものを装うといいのですよ。相手は話題を手に入れて、こちらは名声と質の良い伝者を得るのですわ」
可愛らしく笑っているけれど、さすがはお父様を陰で支えるお方だ。考えに無駄がない。
私の民生官としてお店調査にも快く応じてくれただけでなく、「ちょうどいいわー、次のパーティーまでに噂を広めておきたいものがいくつかあるの」なんて、とっても楽しそうにいそいそと準備を始めてしまったのだった。
きっと、このドレスも『噂を広めておきたいもの』のひとつなのだろう。
「ほら、クリスちゃんはこれを着てちょうだい。私のドレスとはまた違った素敵さでしょう?」
「まあ素敵。もしかしてこれは総レース……ですか?」
「そう! 素晴らしいと思わない? 緻密だけれども大きなモチーフではないから、普段使いにもできるけれど、近くで見れば見るほど、そのレースの細かさに上質さが感じられる逸品よ」