クリスちゃん、俺、頑張るから!
それはきっと、お父様のいう通りなのだろうと思う。
残念なことではあるけれど、自分たちに約束されていた仕事の領域に女性や平民が入って来たと思えば、厳しい目で見てくる貴族出身の人たちはきっと多いと思うから。
以前グレースリア様が制度がそう変わると告げた時、貴族の子息たちが見せた反応は、充分にその可能性を感じさせた。
「娘にそんな苦労をさせるのは、本意ではないが……ハフスフルールの女性たちは、そんな苦境を乗り越えてきた女傑が多い。そんな家系で育った君がクリスティアーヌの傍に居てくれることは、ある意味安心ではある」
「公爵……!」
お父様の思いがけない言葉に私は胸が熱くなった。そんな風に思ってくれていたなんて。レオさんのことも、ハフスフルールという家系の特性も踏まえて、傍にいてくれて安心だと言ってくれた。
これって、暗に認めてくれたように思うのだけれど。
レオさんも、感動したように声を詰まらせた。
「俺、しっかりとクリス……ティアーヌ嬢をサポートしますから、ご安心ください」
「レオ様、ありがとうございます」
嬉しくて、思わずレオさんに微笑みかける。レオさんも「任せて!」と請け負ってくれて、それを見ていたお父様は、なんだか複雑な表情で唇をへの字に引き結んだ。
コホン、とひとつ咳払いして、お父様は真っ直ぐにレオ様に視線を合わせる。その眼光は、私でもちょっと背筋が伸びるくらいに鋭かった。
「とにかくだ、クリスが夢をかなえた時に共に傍で歩める男であってくれ」
「はい!」
威勢よく返事をしたレオさんに、お父様は珍しくフッ……と笑いを漏らす。
「その時までに私に認められるような実績をあげることだな。その時には快くクリスティアーヌとの結婚を認めよう」
「ほ、本当ですか!!!」
「二言はない、楽しみにしている」
それだけ言うと、お父様は颯爽と部屋をあとした。
レオさんは「やった!」と両手の拳を力強く空に突き上げているけれど、結構ハードルが高い気がしているのは私だけかしら。
「クリスちゃん、俺、頑張るから!」
輝いた目で誓われて、私もなんだか気持ちが吹っ切れた。レオさんだけが頑張ればいいことじゃないんだもの。
私もしっかりと夢を掴んで、その上でレオさんとの関係をうまく構築できたとき、お父様は安心して結婚を許してくれるってことだと思うから。
「はい、私も頑張ります!」
誓おう。妥協しないで夢に向かって頑張るって。
それが、レオさんと共に歩む未来へと繋がっていると思うから。