よし、決めた!
「いや、冗談じゃなくてホントに。コーティさんはもともと公爵のお気に入りなんだよ? その上クリスちゃんとあんまり仲良くなられると、真面目に婿候補とかになっちゃうから」
「考えすぎですよ、心配しなくてもそんなことにはなりませんから」
笑う私を半目のまま見ていたレオさんは、いきなり「よし、決めた!」と力強く宣言した。
何を決意したのかわからなくて小首を傾げる私に、レオさんは真面目な顔でこう告げる。
「明日、クリスちゃんのお屋敷にお邪魔してもいいかな」
「? はい、もちろん」
「公爵にもご挨拶したいんだけど、確実にご在邸の時間ってあるかな」
「午前中は間違いないと思いますが」
「分かった。じゃあ、早すぎてもご迷惑だろうから、十時頃に行くね」
にっこりと微笑まれれば、否とは言えない。
というかむしろ、明日も確実にレオさんに会えるんだと思うと、それだけで胸が高鳴ってしまう。
それからは急に上機嫌になったレオさんと共に美味しくケーキをいただいて、満ち足りた気持ちでテールズに戻った私は、女将さんたちにひとしきりからかわれた後、お仕事にもしっかりと精を出したのだった。
***
そして翌日。
「レオナルド様が到着されました」
部屋付きのメイド、シャーリーの声に、私は勢いよく立ち上がった。はしたないけれど、エントランスへと進む足が弾むのを止められない。
今日もレオさんに会える。
そんな単純なことが、嬉しくてたまらない。これってやっぱり、二カ月以上もまったく会えなかった反動なのかしら。
「レオ様!」
エントランスへ続く扉が開いて、レオさんの顔が見えた途端、ついはしゃいだ声をあげてしまった。
次いで、私は小首を傾げる。
いつもなら何か言葉を返してくれるはずのレオさんが、なにか緊張した面持ちで私を眩しそうに凝視しているものだから、自然と私の足も止まる。
「レオ様……?」
そういえば、今日は随分とカチッとしたお召し物。どちらかというと、王城に上がる時のような正装に近い。
そしてそんな装いの中に、私が贈ったクラヴァットとピンをさりげなくつけてくれているのが、なんだかとても嬉しかった。
「やあ、公爵はご在邸かな」
「はい、もちろん。レオ様がお会いになりたいとのお話は、昨夜伝えましたので、父も待っていると思いますが」
「ありがとう」
微笑んで、レオ様は深く息を吐く。
やっぱりとても緊張しているみたい。なるほど、きちんと正装していたのは、お父様に会うからだったのね。