俺、護衛で来てたんだった!
「オーズさん」
「どうした、急に考え込んで」
「いえ……今日から調査してもいいんですよね?」
「ああ、もちろんだ」
「では、せっかく女将さんからいただいた時間を有意義に使いたいので、いったん着替えてまいりますね。私、頑張ります!」
「お、おう。無理はすんなよ!」
私の勢いに呆気にとられたような顔のオーズさんに一つ頭を下げて、私はくるりと身を翻す。
それなのに。
「クリスちゃん、待って!」
突然呼び止められて、足が止まる。
あれ? 今の声って。
「クリスちゃん! 良かった、危なかった!」
「え? 何がです?」
なんだかレオさんは息を切らしている。
どうやら走って来たみたいだけれど、レオさんの周囲にも私やオーズさんの近辺にも、特別危ないものって見当たらないんだけれど。
「いや、俺よく考えたら護衛で来てるんだった!」
「あ」
「今クリスちゃん、一人でどっか行こうとしてただろ。間に合って良かったよ」
「ああそうだったなぁ、ワシもうっかりしてたわ!」
オーズさんが豪快に笑い出した。
「さっきクリスにも言ったんだが、別にそこまで急ぐ案件でもねえ。今日は概要を伝えて仕事を頼みたかっただけだからな。いったんここで解散しよう、ワシもそろそろ店に戻らねえと、急ぎの仕事があってなあ」
「はい、ではあとは任せてください!」
「クリスちゃん、やる気だなー」
にこにこと嬉しそうなレオさんの顔も見ていると、もっとやる気が湧いてくる。
「はい、妙案を思いつきまして。お母様と一緒に調査しようかと思っているんです」
お母様なら邸での対応も、店頭での振る舞いも完璧だろうし、色々と学ばせていただきながら役目もこなせると思うの。ちょうどお母様も、お忍びで下町に行きたいって言っていたし。
「ああ、なるほど」
「はあ!? ちょ、ちょっと待て! なるほど、じゃねえだろう!」
レオさんは納得の表情だったのに、オーズさんはこっちが引くくらい、めちゃめちゃ驚いている。オーズさんもこんな驚きかたしたりするのね。
「バカなこと言うモンじゃねえ! お前の母親っていやあ」
そこまで口にして、オーズさんは慌てて自分の掌で口をおさえた。そして一呼吸置くと、ゆっくりと手を下ろして「うっかりでかい声出しちまったじゃねえか」と恨めし気に私を見る。
「平民の、しかもまだ調査段階で問題として上奏するかも分からねえような案件だぞ。そんな高貴なご婦人に協力してもらうわけにいくか! 恐ろしいことを言うな」
「ダメですか?」