私も負けていられない!
「家格的にもクリスちゃんの家は王族除けば最上位だからね。平民との価格差調べるならうってつけなんじゃないかな」
確かにそうかも。レオさんの言うことはとてももっともな気がして、私はあっさりと賛成に転じた。それを見て、オーズさんも深く頷く。
「よし、じゃあそこの兄ちゃんの案でいこう」
「じゃ、早速行ってこようかな。彼女にプレゼントを探してるって言えば、一気にやっても不審には思われないだろ」
「そうだな。あんたは仕事もあるだろうし、今日のうちに一気に終わらせてくれ」
「了解」
言うが早いか、レオさんは「じゃ、クリスちゃん行ってくるね」とひとつウインクして、さっさと歩き始めた。一番手前の店のショーウィンドウを覗き込み、慣れない様子を装いながら、店におずおずと足を踏み入れている。
平民の男性が、彼女のためにおっかなびっくり高級店に入ってみてるって感じを見事に出しているのがすごい。
「演技派……」
つい呟いたら、後ろでオーズさんがふきだしていた。
「私も負けていられませんよね。ちょっと着替えてお化粧してから改めて来ますね」
「あー待て待て、張り合うな。ヘンな噂がたっても困る。少々時間がかかってもいい案件だからな、数日に一、二店舗ずつ、学業や店の仕事に影響が出ない程度で調査してくれ」
「そんなあ」
レオさんに溝を空けられちゃう。
「だから張り合うなって」
オーズさんは笑うけれど、だって元々私に頼んでくれようとしたお仕事なんだもの。私だってかっこよくお仕事をこなして見せたい。
「貴族の娘が全店ハシゴするのも変だろうが。貴族らしく振舞うのが重要なのさ」
「はい……」
「クリスが実売の調査をしてる間に、俺は仲買いやら、間に変な搾取が入ってねえかを調べておく。ある程度情報が揃ったらまた改めて方針を決定すりゃあいい」
オーズさんになだめられて、私もちょっと冷静になってきた。オーズさんに言われた言葉を自分の中でゆっくりと反芻してみる。
そう、貴族らしく振舞うのが重要なのよね。
考えるほどに、今の私では知識が足りないと感じられる。
なにせ今まで、ドレスや宝飾、靴や小さな小物に至るまで、用意されたものを身に着けて貰うだけで、自分では選んでいなかったんだもの。多分、お母様が選んでいたんじゃないかしら。
正直、自分で選んで買ったのなんて、クリスとして得たお給金で買った可愛い小さなリボンがついたピンくらい。あとは、レオ様のために買ったものだけだ。
貴族の娘がどんな頻度で、どんな感じでお店の人と対応するのかさえ分からない。
これはマズイ。やっぱりレオさんと変わって貰えばよかった。
こうなったらお母様にさりげなくお願いして、お店の方との対応を学ばせてもらった方がいいのかしら。
……そこまで考えて、はたと思いついた。
「クリス?」
いけない、考え込みすぎてオーズさんに小首を傾げられてしまった。