クリスなら調査にうってつけだ
「まだ実売の調査の段階だ。この宝飾街の各々の店での売価を調べようと思ってる」
「えっ、全部?」
「全部だ」
レオさんの驚きの声に、オーズさんは当然と言った様子で首肯する。
「いやいや、ぶっちゃけ買いたたいてる店とかルートとかって、ある程度特定できてるでしょうに。全部の店確認する必要ないんじゃ?」
「そりゃあ特定できてるさ。だが、ヤツらの話を鵜呑みにするわけにもいかねえだろう。他の店との価格差も明確にはわからねえし、値が跳ね上がってるのがどの段階かもわからねえしな」
「まあ、確かに」
「この機に明らかにしとくのもいいだろ。ワシの商売にとっても有益な情報だ、巡って来た機会はうまいこと使うに限るのさ、分かるだろ? 兄ちゃん」
「なるほど」
なんだか分かりあったような顔で二人は頷きあっている。なんだろう、なぜレオさんの方が既にオーズさんと仲良さそうに見えるのか。ちょっと悔しい。
「ワシや動かせるメンツはこの宝飾街じゃ目立ちすぎる、この手の調査にゃ向かねえ」
「そりゃそうだ」
「その点クリスなら調査にうってつけだと思ってな」
オーズさんの視線を受けて、私は急にドキドキしてきた。
「やっぱどっか品があるのかね、この辺にいてもさほど違和感がねえし、何よりクリスなら町娘としても、貴族としても調査できるだろう」
期待の目で見られて、「できる!」と言い切ってしまいたいところだけど。
「商人の方達の目をごまかすのは難しいかもしれません。私、つい先日、学園の制服で立ち寄った際に馴染みの宝飾店の方にクリスティアーヌだと見破られてしまいました。……髪は縦ロールでしたから、そのせいかもしれませんけれど」
「うーん、そうか。確かにあいつらの観察眼は鋭いからな」
オーズさんが唸ると、レオさんが「はい! はい!」と元気よく挙手した。
「俺とクリスちゃんで手分けして調べるってのはどうです?」
「言ってみろ」
「町娘としても、貴族としてもってことは、店側が相手によって価格を変えてる可能性も考慮してるってことでしょう?」
「そういうこった、話が早くて助かるな」
「俺が平民として、クリスちゃんが貴族として調査すれば、同一人物が姿を変えて調査するよりは断然違和感を持たれる危険度は下がるし、身分によっての価格差の調査は問題なく出来る」
「確かに。でもそれなら私が平民の方が良いのでは? 私は髪も切っているしお化粧もしていないからそれなりに印象が違うけれど、レオさんって貴族の時と今とそう変わらない気がして」
「ま、ほぼそのままだけど。でも俺ん家、宝飾系の取引は一店だけに決めてるから、ここらの宝飾店には顔が割れてないと思うんだよね。クリスちゃんの場合は家が家なだけに、取引がないところでも注目してると思うよ」
「そ、そんなものかしら」
あ、でも確かにオーズさんも私の名前は知っていたから、宝飾関係のお店の方なら、確かに顔も認識しているものかもしれない。