しっかり学ぶこったな
「下町をただ歩くだけでも護衛の方に守られないといけない状況で、こんな事をお願いするのは本当に申し訳ないんです。オーズさんにも、護衛のマークさん達にも」
マークさんとオーズさんの視線が、静かに私に降りて来た。ただ私の言葉を待ってくれているらしい様子に、私はうつむいて一生懸命に言葉を探す。
「このお願いをしようと考え付いた時、ご迷惑になるだろうことはすぐに想像がついたんです。でも、それでも。どうしても私、まだ自由が利く今のうちに、民生官の方々が、市井のどんな問題にあたっていらっしゃるのか、見たくて……」
「なんだよ、そんなことか。アホらしい」
オーズさんの呆れたような声に、私も弾かれたように顔をあげる。見上げたオーズさんの目は、意外にも怒りの色をはらんではいなかった。
「んなの別にいいじゃねえか、細けえこと気にするんじゃねえよ。世話になっときゃいいんだよ」
「だな」
と、マークさんも相槌を打つ。
「おどかしやがって。、さっきまでやたら威勢がいいかと思えば、急に落ち込んだ顔するからよお、何かと思えば、気にしてもしょうがねえことをグダグダと」
ぶっとい腕を腕組みして、オーズさんは豪快な笑顔を見せた。
「あんたは貴族のお嬢なんだ、護衛なんざ何やろうとしても嫌でもついてまわる問題だろうよ。放っておけるわけがねえ」
「高位になればなるほど、男でも護衛をつける事のほうが多いくらいだしな」
「そーいうこった、気にしてたら何もできねえ。貴族だけじゃねえ、駆け出し冒険者もベテランに守ってもらいながら魔物との闘い方を覚えていくんだ、世の中そういうモンなんだよ」
「違いない。俺も駆け出しの頃は酷かった」
何か思い出したのか、マークさんも面映ゆそうに笑っている。
「むしろそんだけ分かってんなら上出来だ。周りに世話になった分、しっかり学ぶこったなあ」
「……はい!」
「おー、ようやく笑ったな。それでいい、娘っ子は可愛く笑ってるのが一番だ!」
オーズさんが背中をバンバンと景気よく叩いてくれた。なんだか女将さんに似た、分厚くてあったかい掌で、とてつもなく落ち着く。
強面だけれど、オーズさんはとても優しい、面倒見がいい人なのかも知れない。
「ま、こういう娘なんでね、それなりに護身術の基礎もつけてある。よろしくしてやってくれ」
保護者みたいにマークさんが改めてそう言ってくれて、私もあわてて改めて頭を下げる。
こうして私は、民生官の仕事も見せてもらえることになったのだった。