翌日、私は…
翌日、私は『テールズ』で忙しく働いていた。
今日と明日は休日で、忙しさももちろんピーク。半年もお世話になっておきながら「はい、さよなら」とはさすがに言えない。今日明日のピークを一緒に乗り切り、最後のご奉公とさせていただく事になったのだ。
その代わりその後1週間は邸に缶詰で、猛勉強する事になっている。
学園に戻るにも半年のブランクがあるわけで、その1週間で直近の授業に近しい所を集中して学び、半年分はざっくりダイジェストを頭に入れて、後は日々の授業をうけつつ後追いで勉強していく予定だ。
プラス公爵家令嬢としての教育もあるから、しばらくは相当ハードな生活になりそうだ。
でも、やるしかない。
これまで身を入れて勉強して来なかったツケと、半年前に逃げ出したツケが溜まった結果なんだから。
「クリス!ケーキセット4つ、マリーちゃん達に運んどくれ!」
「はーい!!」
いけない、いけない。
考え事してる暇なんかないんだ。
女将さんのためにも、キビキビ働かないと!
…女将さんは、私が公爵令嬢と分かってからも変わらずに接してくれた。「クリスがいいトコのお嬢様だろうって事くらい、最初っから分かってたさ。まぁまさか公爵様の御令嬢とまではさすがに思わなかったけどねぇ」と豪快に笑う姿は、まさに肝っ玉母さんといった風情だ。
「あん時のクリスは、ほっときゃ明日の朝には死体になってそうな顔してたからねぇ。よっぽどの事があったんだろうと思ってさ」
なんて笑ってたけど、女将さんは、いかにも事情ありげな私を親切心で雇ってくれたわけだ。本当に、感謝してもしてもし足りないくらい。
「人助けと思って雇ったけど、よく働くからビックリしたよ。お貴族様が嫌になったらいつでも帰っておいで。こき使ってやるから」
そう言って乱暴に頭を撫でてくれる、いつもの仕草に夕べは思わず泣いてしまった。私、この女将さんの下で働けて本当に良かった…
混乱し切っていた頭も心も、きっと随分と癒して貰ったんだ。
だからこそ、感謝を込めて一生懸命働こう!
朝のラッシュを乗り切って、やっと一息ついた時だ。
うわ、と思った。
記憶に新しい、あからさまに怪しいフードの人達が入ってきたんですが。…本日は3名様のご来店、中身は一体誰なんでしょうか…。
入ってくるなり、上背の高いフードさんがツカツカと女将さんに歩み寄る。なんというか…かなりの威圧感だ。
「女将、これを」