わかった、協力しよう
オーズさんが言いたいことも分かるけれど、お店の常連さんなんかはみんな私が普通の町娘じゃないことは、多分察していると思う。
「色々あったのでお客様たちも多分ある程度察しているかと。というか、女将さんは私の身分もご存知です。私の母とも直に話したことがありますし」
小さめの目を精一杯に見開いたまま、オーズさんが固まる。一拍置いて、爆笑し始めた。
「そうかぁ、あの女将も剛毅だなぁ」
「ああ、気風がよくてこっちがヒヤヒヤするくらいだぜ」
マークさんとひとしきり笑いあって、オーズさんは分厚い手で自分の膝を叩く。
「あー、分かった分かった、なんか裏があるワケじゃねえってことはようく分かった。協力しよう」
「本当ですか!」
「二言はねえ。で? 民生官の仕事なんざ厄介ごとや荒事も多いぜ? 何を見るつもりだ」
「できるだけ、ありのままを見たいんです。民生官のかたのお仕事や町で起こる問題を実際に見て知ることで、市井官になった時に問題の内容も正確に把握できるでしょうし、適切に対処できるんじゃないかと思うんです」
「ほう、殊勝じゃねえか。だがなあ、さすがに全部は無理だ。ケンカの仲裁なんかで貴族のお嬢様にケガなんぞ負わせた日にゃ本当の意味で首が飛ぶ」
オーズさんの言葉にシュンとする。でも、そう……よね。
「本気で危ない時は俺が止める」
私の頭の上に、ポンとマークさんの掌がのる。見上げたら、私に少しだけ視線をくれて、安心させるように微笑んでくれた。
「護衛として必ず俺かセルバがついてるからな、基本心配はいらねえと思うぜ」
「ほう、セルバもか。いい人選じゃねえか。さすがだな」
「クリスが町を歩く時にゃどちらかが必ず護衛につく。安心だろう?」
「ふうん、まあそんなら文句はねえな。見たいだけ見ていきゃいい」
「だとよ。良かったな、クリス」
白い歯を見せて破顔するマークさん。彼の援護がなかったら、見せてもらえる範囲はきっと随分と狭まってしまったんだろう。
少しでも、民生官の生の仕事が体験できるようにと、交渉してくれるマークさんの気持ちがありがたい。そしてその一方で、その手助けがなかったらと考えると、自分のちっぽけさが身に染みて感じられる。
しかも護衛がつくから安心、だなんて。なんて身勝手な話なんだろう。
「どうした、シケた面して」
私の気持ちを瞬時に感じ取ったらしいマークさんが、すかさず顔を覗きこんでくる。
マークさんのおかげで民生官の仕事を見せてもらえることになったのだから、とびっきりの笑顔で応えたいのに、私はどうしても笑えなかった。