おととい来な!
「民生官としての仕事を、一端でもいいので見せていただきたいのですが、可能でしょうか」
「ハァ!?」
オーズさんは鳩が豆鉄砲をくらったような顔で、大きな口をぽかんと開けている。
「民生官としての仕事を? なんでまた」
「私、実は将来の仕事として市井官を目指しています。今のうちから少しでも市井官の仕事に役立つことを学びたくて」
「そりゃお門違いだ、姉ちゃん。市井官になりてェなら、そっちを見に行くべきだろーが」
手をヒラヒラと上下に振って、おととい来な、とでも言いたげなオーズさん。無理もない、オーズさんの言いたいことは至極もっともだもの。
「はい、市井官のお仕事も、先週から見せていただいています」
「ハァ!? 市井官の仕事なんざ王城に入れねえと見られるはずが……まさか、アンタ」
マークさんがたまらず噴きだした。
「オーズ、お察しのとおり、この子は貴族だ」
マークさんにそう断じられても、オーズさんは信じられないといった様子で私を上から下まで何度も見ては首を傾げている。
……まあ、今の私、どこからどう見ても普通にそこらへんにいる町娘にしか見えないものね、気持ちは分かるというか、なんというか。
「この子は変わり種でね。ま、上位の貴族なのは間違いねえんだが、学園が休みの日にはテールズで給仕の日雇いもやってるんだ。ただの道楽で言ってるわけじゃあねえぜ」
「テールズって……あの、飯屋だか飲み屋だか、威勢のいい女将がやってる店だろう」
「ああ、それだ」
「なるほど、店に来る野郎どもが、可愛い看板娘が入ってるって言っちゃあ鼻の下伸ばしてやがったが、ありゃあアンタのことか」
オーズさんにまたもやガン見されるけれど、冒険者の方々が言っている看板娘が私のことかどうかは、さすがに判じられないんですが。
「多分、そうだな。もう足掛け三年は働いてるからな、噂にもなるだろう」
地味に困っている私を見兼ねて、マークさんが助け船を出してくれた。
「三年……なるほど、ただの遊びじゃ続かねえ年数だ」
呟いたオーズさんが、急に真顔になった。
「何が目的だ? 女の市井官なんざ聞いたこともねえが……何を企んでる」
真正面から見据えられて、急に周りの温度が下がったような気がした。なんだろう、なんだかとても怖い。
本当に、熊を前にしたみたいに、体が硬直するような緊張感が走った。
「あ、あの、私。町の人達の……役に、立ちたくて」
どうしよう、オーズさんの目が怖い。さっきまでの豪放磊落な印象とは打って変わって、研ぎ澄まされたような怜悧な雰囲気がオーズさんの体を覆っている。
緊張で、しどろもどろになっているのが自分でも分かる。まるで、本気で怒ったお父様を前にしているみたい。
なぜかは分からないけれど、オーズさんをとても不快にさせてしまったらしい。