オジサマ、頑張って!
見れば声の主は入り口に近い席に陣取った、商人のオジサマたち。中でも恰幅のいいにこやかなオジサマが何かを思い出すために、必死に頭を捻っている。
頑張って! 思い出して!
心の中で声援を送っていたら、そのオジサマが急に眼を見開いて、手をポンと打った。
「思い出した! 確か武器屋のオーズだ! この前、民生官の会合があるからなんたらって言ってた気がするぞ」
「武器屋のオーズなら俺も知ってる。あいつ、民生官だったのか」
マークさんが、いかにも意外だといいたげに呟いた。
「さあ、熊だしな。ヤツが民生官なのかは怪しいが、ともかく民生官が誰かは知っているだろうよ」
「ありがとうございます!」
ものすごく有力な情報が手に入って、私はもうとにかく嬉しくなってしまった。
「これ、情報代です! 本当にありがとうございます!」
オジサマがいつも頼んでいるエールをトンと目の前に置けば、オジサマは「おお、嬉しいねえ」と目を細め、一気にグラスをあおってくれた。
「良かったじゃないか、クリス。ここの皆もホント、いざって時は頼りになるねえ」
「はい!」
「ちょうどいいよ。クリス、今からお使いに行ってきとくれ。いつもの食材でいいからさ」
ぽいぽいっと投げられたお財布と買い物かごを慌てて受け取ると、女将さんからドーンと豪快に背中を押される。
「ついでに武器屋のオーズとやらに会ってきな! 少々時間がかかっても構いやしないからさ、せっかくだからうちの店の宣伝もしといておくれよ!」
「女将さん……! いいんですか?」
「こういうのは早い方がいいもんさ。マーク、ちゃんと守っておやりよ」
「当たり前だ。それが俺の仕事だからな」
チャリン、と音を立ててテーブルに飲み代を置くと、マークさんは私よりも先に店を出て行ってしまった。私もあわててあとを追う。
「女将さん、ありがとう! 行ってきます!」
言い置いて扉から飛び出すと、ドーンと何かにぶつかってしまった。
「いたたた……」
「大丈夫か、焦り過ぎだ」
「ご、ごめんなさい」
マークさんの背中だった……壁かと思うくらい硬かったんだけど、やっぱり鍛えてる人の背中って硬いんだわ。
「ん、鼻血も出てないな。それじゃあ、行くか」
賑わう市場で、野菜やお肉、香辛料といった頼まれていた買い物をさくっと済ませると、先に立って歩くマークさんの背中を追って歩く。
市場から歩いて五分ほど、町の外に向かう大通りの中ほどに、オーズさんの武器屋はあった。
無骨な石作りの店構えに、鉄製の武器屋を示す看板がかかっている。
出入りしているのは男の人が圧倒的に多くて、その誰もが何らかの武具、防具を身に着けている冒険者のようだった。マークさんは違和感ないけど、エプロン姿に買い物籠の私はいかにも町娘のいで立ちで、あの店に入ると確実に浮きまくりだろう。
でも、こればっかりは仕方がない。とりあえず、マークさんが一緒で良かった。
「入るぞ」
「はい!」
気合を入れて答えたら、マークさんに吹き出されてしまった。