市井官のお仕事④
「今日は最も安全で分かりやすい計画と予算立てを見てもらいましたが、実際は調査で市井に出ることも多い仕事です。危険なことが全くないとは約束できませんし、知りたくもない裏事情を知ることも多いのが実情ですよ」
コーティ様は申し訳なさそうに目を伏せているけれど、正直そんなことは織り込み済みなんですけれど。
「……市井官の仕事が、嫌になったりはしていませんか?」
「まさか! 調査書や計画書を見ただけでも、一件一件をこんなに丁寧に調査して、出来るだけ沢山の人たちが益を受けられるように計画を立てていく過程を見ることが出来て、とてもやりがいを感じました!」
私の答えを聞いて、コーティ様はホッとしたように笑顔を見せてくれた。
「良かった、貴女にはぜひ市井官になって欲しいと思っているのですよ。だからこそ、今回エールメから貴女のことを聞いた時、見学に応じたのです」
「まあ……なぜか聞いても良いでしょうか」
「エールメから、貴女が半年ほど民に紛れて生活していたという異色の経歴は聞き及んでいます」
「……! そう、でしたか」
「市井官はこの王都に住む色々な身分、性別、年齢の方が、少しでも生活しやすいように制度や環境を整えるのが役目です。個人差も大きいでしょうが境遇や性別、年齢などによっても考え方や求めるものは違う筈ですよね」
「はい、そう思います」
「色々な要望に広い視野で答えていくためには、本来ならば事情をよく知る平民の市井官が欲しい ところです。しかし平民では一部の貴族からは軽くあしらわれてしまうでしょう?」
「それはきっと、そうでしょうね」
「貴女なら民衆の生活を肌で知り、彼らのためを思ってこの役目に当たることが出来るでしょう?」
「はい!」
「そして、影宰相という強大な後ろ盾もありますから、ミスト室長も各所への脅し……おっと、各所との調整もやり易くなると申しておりましたし」
なるほど。
ミスト室長の言動からは先ほどからチラチラと若干含むものが見え隠れするような気がしていたのだけれど、やっぱりそういう方なのね。
「大義のために使えるものは躊躇なく使え、というのがミスト室長の信条なのです」
コーティ様はウインクしながらそう教えてくれる。
生真面目そうなコーティ様のちょっとお茶目な部分も垣間見えて、なんだかホッとしてしまう。
こうして私はその日、つつがなく市井官としての職業体験を終えて、市井官になりたいという思いをますます強めたのだった。