市井官のお仕事②
「そうです。あらかたの揉め事は強面の民生官の方々が治めてくださるのですよ。ただ、裁判沙汰に発展するレベルのものは私どもで精査しますし、とくに治水や利権、開発関係は国政としての優先順位もありますからね」
「確かにそうですよね」
「ざっくりと手順を説明しますから、しっかりと聞いてくださいね」
メモを取る手に思わず力が入る。私は、力強く頷いた。
「定期的に民生官の方々から上申される案件に目を通しますこの時、重要度や難易度、影響の大きさを加味して優先順位を決める」
「優先順位……。取り組む優先順位ですか?」
「もっと前の段階ですよ。ざっと調査をしてみないと、本当の案件の重さは分からないことが多いのです。調べるのに時間がかからないものと、緊急性の高そうな案件から先に手分けをして調査を進めます」
手元の書類の山をポンポンと叩きながら、なんでもないことのようにコーティ様は言うけれど、私は生唾をのんだ。なんせ四列に分かれた書類は、まるで互いに支え合うように高く積まれている。
こんなに大量の書類に目を通してざっと優先順位をつけるだけでもなかなか大変そうだ。第一段階からなかなかハードだし、経験値が必要なことなんじゃないだろうか。
「調査をしていくとすぐに解決できそうな案件や、差し戻せる内容もでてくるので、そこからは手分けをします」
「差し戻すこともあるんですね」
「ええ、もちろん。国民全員に利があるものなら予算さえ通れば何の問題もありませんが、取り上げるべきでない提案が上がることもありますし、大抵は一方の利になるものは別の組織にとっては不利になるものも多いのです。それを十分に精査するのも我々の大切な職務なのですよ」
コーティ様は穏やかに話しているけれど、それはどんなに難しいことだろう。市井官の仕事の難しさの一端を感じて、私は真剣な顔で頷いた。
僅かに微笑んで、コーティ様はさらに説明を続ける。
「この書類、無造作に積み上がっているように見えるでしょう? ですが、これでちゃんと分類されているのですよ」
左が『未調査』、次が『不採用』、その横が『採用、緊急案件』、そして一番右が『採用、通常案件』で、各々優先順位が高い順に並んでいるんですって。
机の上の書類の山を恐々見つめていたら、いくつかの書類が分類されずに机の上に置かれているのが目に入った。
「これは?」
「本日処理する分ですよ。その内の五件はこれから調査に向かってもらうもの。そして、この赤いマークが付いている四件の書類が本日差し戻し案件としてミスト室長に処理していただくもの。そして最後のひとつはこれから私が草案をつくるものです」
コーティ様は「ちょっと待っていてくださいね」と前置きすると、扉を開けて「ミスト室長! お手数ですが指示を出しておいてください」と書類を渡す。
扉の向こうから「君は人使いが荒いねぇ」なんて、ミスト室長が愚痴る声が聞こえてきた。