市井官のお仕事
「言い聞かせてあった筈なのですが。すみませんね、クリスティアーヌ嬢」
「い、いえ」
「仕方ないじゃないか、君だって気になるだろう!」
「はいはい、おいおい聞きましょうね。それではクリスティアーヌ嬢、早速仕事の内容を見せていきますから、奥の部屋に移りましょう。ここだと色々うるさいですからね」
「影宰相に話をつけたのは僕だぞ、少しくらいいいだろう!」
「もちろん、とても感謝していますよ」
にっこりと笑みを浮かべたコーティ様からは、なぜかとても怖いオーラが放たれていた。
「ですが、今日のメインは彼女に仕事の内容をしっかり把握して貰うことです。室長の質問責めで彼女の市井官への情熱が消えたりしたら、恨みますからね」
コーティ様は笑顔のままなのに、ミスト室長はひとつブルリと身震いして見せて「おー怖い、分かりましたよ、もう」と呟いた。
「気にしないでくださいね、室長はちょっとだけ噂好きでいたずら好きな方なのです」
コーティ様にそう言われれば、頷くしかない。コーティ様とミスト室長の力関係が気になるところだけれど、それこそ詮索はできなかった。
「クリスティアーヌ嬢、頑張っておいでー」
ミスト室長の声のバリトンボイスに見送られつつ、私はその部屋をあとにした。
そしてやってきたのは奥の部屋。
さっきのは立派な彫りのある室長の机が置かれていて、本棚と重厚な応接セットがある落ち着いた部屋だったけれど、こちらはかなり趣が違う。
質素な木の机には書類や何かの資料が山と積まれているし、あまり見たことがない道具が部屋のそこ此処に置かれている。
壁には赤で書き込みがたくさんされた地図がいくつも貼り付けられているし、グラフや数字が書かれた表まで貼られていて、とても王城の一室とは思えない混沌ぶりだった。
「うわあ……すごい」
つい口から感想が漏れた。
「案件は難しいものからすぐに決済できるものまで様々、常に途切れることはないんです。今進行中の案件に関わるものがこの部屋には散らばっているのですよ」
「これが全部、民生官の方から上申された案件なのですか?」
「ええ、少しは勉強してきたようですね」
目を細めると、コーティ様は「早速始めましょうか」と私に椅子を進めてくれる。
山と積まれた書類にはよく見るとたくさんのメモ書きや、チェックがされていて、コーティ様がとても真剣に案件に取り組んでいることが見て取れた。
「今私は、西区、東区、中央区を担当しています。市場があって商人が多く住む東区は利権問題や交易ルート、地権がらみの案件が多いですし、冒険者や鍛冶屋、宿泊施設などが多くある西区は素材の使用権や鉱山開発、ギルド関係の揉め事なんかも多いですね」
「地区によって対処する内容が変わるわけですね」