お父様の教え
「全員が全員、素直に自らの非を認め、考えを改めるとはゆめゆめ思うでないぞ?例え真実を話したとしても、我々が公爵家の権力で事実を曲げたのだろうと邪推する者も居るだろう」
お父様の言葉にハッと息を呑む。
そうか、むしろその可能性の方がよっぽど高いんだ。ショックだろうな、なんてうっかり思ってしまった私は相当おめでたい。
「確かに、そうかも知れません。まだまだこれからなんですね」
「ああ、人は自らの信じたいものを信じがちだからな。話を聞いた段階で、それでも闇雲にあの娘を信じる者、表面上は従う者、自らの過ちに気付く者…様々だろう。お前も注意深く見てみる事だ」
これまで極力、人に関心を持たないようにしていた私にとっては、確かに一番大切な事かも知れない。
「そして私達がそうして見るように、相手もまた、私達の行動と言葉の端から真実を知ろうと見ているのだ。相手からどう見えるかを考慮して言動を取りなさい」
「はい。本当に足りない所ばかりで…でも、努力します。…私、この邸に来る前に、もう逃げないと決めたのです」
「…そうか、期待している。下町で働いていた時のように、笑顔で頑張りなさい。私も生き生きしたお前が見たいからな」
そう言って、お父様が破顔した。
随分と久しぶりに見る笑顔だと気付いて、また胸が苦しくなった。
…私、今度こそ頑張ろう。
「殿下の取り巻き達も、反応に応じて各々の親がこうして話し合う事になっているのだよ。今回の件は、我々親の責任も非常に大きいのでな」
うまくいくといいが、とお父様が独りごちる。
「今回の件に関わった令息達は、考え方を鍛え直すために、毎日終業後王宮にて指導者をつけ実地の案件にあたらせる事になっておる。彼等にも得難い経験になるだろう」
それを聞いて、ふと前世を思い出した。
バイトで新人さんの教育係になった時に先輩に言われた言葉。『教えたつもりじゃダメ、説明して分かってないみたいなら、やって見せて、一緒にやって、コツを教えてあげて』って。
今まさに私達、要領悪い系新人さんコースの教育を受けようとしてるんだな。
「さて、そろそろ陛下と殿下の話も終わった頃か。昨日お前が庶民と共に働いているのを見て、かなり鬱ぎ込んだと聞くし大丈夫だとは思うが…殿下には、一番責任を感じて、心を入れ替えてもらわんと話にならぬでな」
冤罪への経緯が杜撰過ぎただけに、そこは私も是非ともお願いしたい。