あの方がコーティ様かしら
「ありがとうございます……! 私、頑張ります!」
「べ、別に」
なんだか急に赤くなったアデライド様は、そのままそそくさと行ってしまった。アデライド様はこうしたギャップが可愛らしい。
一人でくすくす笑っていたら今度はルーフェスが「今いい?」と顔を出す。
なんとなくこの二人、似てる気がするのは私だけだろうか。
「僕も一緒に行こうか? 市井官の仕事は王城の中でもなかなかの……その、特殊な仕事らしいし、なんというか、担当者も曲者揃いだと聞くよ」
ルーフェスはすごく言い淀んでいるけれど、考えるに市井官は王城でもっとも民衆との直接的なやりとりが発生する仕事だろう。貴族と社会とは違う部分が多いんだろうし、担当の方が曲者揃いというのも頷ける。
もしかしたら案件を通すためには多少の汚れ仕事や荒事なんかもあったりするのかも知れない。ただそういう苦労ならば多分、民生官のほうがより顕著だと思う。だからこそ、そんなことで躊躇してはいられない。
「ありがとう、でも大丈夫よ。ルーフェスはお父様のお仕事をしっかり学んでちょうだい」
それでも心配なのか、ルーフェスはとても不満そうな顔になっていた。ほんの僅かに唇を尖らせている仕草がまだまだ子供っぽさを残していて可愛らしい。
弟が心配してくれるって、なんだかとても嬉しいものなのね。でも、私だって少しは姉らしい後ろ姿を見せたいもの。
「見ていて、ルーフェス。私、このチャンスを絶対に無駄にしないわ」
「姉さん……」
アデライド様を見習って、私も堂々と宣言してみる。そうよね、公言すればもう逃げ腰にもなれないもの。確かに、気合を入れるためにも宣言するっていいことだわ。
ルーフェスもそんな私に、さすがに言えることがなくなったらしい。驚いたように何度か瞬きしたあと、フッと微笑んで首肯した。
「分かったよ、頑張って」
最後にはそう言って笑ってくれた。
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王城の二階フロアなんて、初めて入る。
これまでは主にパーティーが開かれる一階の大広間や、謁見室にしか入ったことがなかったんですもの。
エールメ様から聞いていた通りに王城の二階に足を踏み入れると、階段上の広間に人待ち顔の男性が立っていた。
モノクルっていうのかしら、左目だけに銀縁のレンズを付けている。穏やかそうなアルカイックスマイルに色白の肌、緩やかなウェーヴの水色の長い髪を一つにまとめて、全体的に癒し系の気配がする。
雰囲気がエールメ様にそっくり。
もしかして、あの方がエールメ様のいとこのコーティ様かしら。
そう思った瞬間、男性が私に目を止めて、柔和な表情のまま近づいてきた。