いやあ、わくわくするなぁ
すっかりいつもの顔に戻って屈託なく笑うセルバさんに、私はただただポカンとするしかない。魔法って本当に凄い。
でも、疲れていたのは事実だろうに、魔法で疲労を吹っ飛ばすだけで大丈夫なんだろうか。こちらの心配なんかどこ吹く風で、セルバさんはニンマリと口角をあげる。
「さ、話してもらおうか」
にっこり微笑むセルバさん。これはもう、話すしかないだろう。私はさっきから考えていたお願いを、素直に話すことにした。
「へえ、魔法をまた習いたいのかい? 別にいいけど」
さっきまであんなに疲れた顔をしていたというのに、セルバさんはなんでもないことのように気軽に了承してくれる。セルバさんって魔法の事になると、本当に懐が深い。
「ありがとうございます!」
心からの感謝の言葉が口を突いて出た。
「でもなぁ」
一旦は了承してくれたのに、急にセルバさんの顔が険しくなる。
「君の弟……ルーフェスっていったっけ? また魔法を習ってるなんてことがあの子にバレると、面倒なことになったりしないかい?」
チラリと見られて、思わずウッ……と言葉に詰まった。以前、魔法を習いたての頃、セルバさんに魔力循環の魔法をかけて貰って倒れた時のルーフェスの剣幕を思い出すと、確かに腰が引ける。
でも。そのあと結局はセルバさんに回復魔法を習ったことだし、もう大丈夫なんじゃないかと思うけど。
「ま、僕に矛先が向かないようにしてくれれば、それでいいんだけどね。僕も王宮勤めだからさ、さすがに公爵家に睨まれたくはないんだよ」
「そこは任せてください」
そこだけ請け負ったら、セルバさんはあっさりと引き受けてくれた。というか、むしろウキウキしているようにも見える。
「いやぁ、嬉しいな。クリスちゃんの体質ってホントに面白いから、機会があったらまた魔力贈与と魔力循環を交互にやってみたかったんだよね。僕の予想では、まだまだ魔力の底上げができるんじゃないかと思うよ」
その研究をやらせてくれるなら、魔法なんていくらでも教えるよ、と請け負うセルバさんの目は、すでに研究者のそれだった。
「いやあ、わくわくするなぁ。でも今日は下準備だけにしとこうね」
やっぱりウキウキ、わくわくしていたらしいセルバさんにさっそく魔力贈与と魔力循環をほどこしてもらい、次から本格的にまた魔法をならうことになった。
正直、すぐにでも回復魔法の訓練に入りたいと言うのが正直な気持ちだけれど、セルバさんの魔力が私の体に馴染んでからの方が、いろいろと教えやすいんですって。
少しだけ、前向きな動きが実際に出来て、なんだか心まで軽くなった気がした。